iPhone XS/iPhone XS Maxの発売から遅れること約1ヶ月、ようやく「iPhone XR」が2018年10月26日に発売された。
低価格版ながらスマートフォンのなかで最もパワフルなチップと業界の中で最も先進的なオールスクリーンデザインの液晶ディスプレイを搭載し、全6色のカラフルなボディをラインナップした「iPhone XR」をiPhone XSと比較しながらレビューする。
It's GOOOOD!!
- 全6色のポップな美しいカラーバリエーション
- 高速化されたワイヤレス充電
- 機械学習でキレイに撮影できるカメラ
- 上位モデルとほぼ同じチップセット
TOUGH...
- 3D Touch非対応(LINEを既読のまま読めない)
- ポートレート撮影が料理に対応していない
- 厚めのベゼル
ポップで美しいカラバリ
「iPhone XR」の最大の特徴は全6色のカラーをラインナップするカラフルさだ。
ベーシックなホワイト・ブラックに加え、色鮮やかなブルー・イエロー・コーラル(PRODUCT) REDを取り揃える。なかでもブルー、イエロー、コーラルの3色はかわいらしく柔らかいポップなカラーでスタイリッシュなiPhone XSとはまったく異なる雰囲気を持つ。
Apple公式サイトの予約販売ではイエロー→レッド→ブルーの順番で売り切れが発生。各カラーによって在庫数に違いがあるかもしれないが、周りの状況を見てもイエローが最も人気になっている。
ポップなカラーは安っぽい印象を受けてしまうことがある。iPhone 5cはまさにそれの典型だったが、iPhone XRのバックパネルはiPhone 5cのようなプラスチックではなくガラスを採用することでiPhone XSのような高い質感を実現。手で触れた時の感触も良くプラスチックの安っぽい質感やアルミの冷たい質感ではない。
ガラスでサンドイッチされたフレームには航空宇宙産業で使われているものと同じグレードのアルミニウムを使用することで優れた硬度を誇る。アルミにはポップなカラーと色を合わせるように酸化皮膜処理を施すことで一体感を生んだ。特にブルー・コーラル・(PRODUCT) REDに施された鮮やかな着色は素晴らしいデキ。もちろんバックと完全に同色というわけではないが高い一体感を生んでいる。対してイエローのアルミフレームはほぼゴールドのような見た目で一体感という点では少し劣ってしまう。
また、iPhone XSが採用している光輝くステンレススチール製のフレームと比べるとアルミフレームはどうしても高級感で物足りないものがあるが、おそらくポップなカラーとの相性はアルミフレームの方が良いはずだ。
スムーズではないが片手操作も可能なサイズ感
サイズはiPhone XS MaxとiPhone XRの中間になるが、どちらかと言えばiPhone XS Max寄りの大きさになっている。片手操作など使い勝手に大きく左右する横幅はiPhone XSよりも約5mm大きく、iPhone XS Maxよりも約2mm小さい。iPhone XS Maxでの片手操作はほとんど不可能だったが「iPhone XR」でならば片手での文字入力も決して不可能ではない。
厚みはiPhone 8よりも1mm大きく触って比べると確かな違いを感じる。スタンド型のワイヤレス充電器に置いたときもスタイリッシュに見えるのはiPhone 8の方だ。ただ、「iPhone XR」の8.3mmという高さはスマートフォンのなかで決して分厚くはなく、ほどよい厚みと評価したい。重さはスマートフォンとしては重い部類になってしまう194gだが、17g軽いiPhone XSと持って比べても大きな違いは感じられなかった。電子書籍を長時間読んだり、長い時間ゲームをプレイすると腕が疲れるが疲労度はiPhone XSとほとんど変わらない。
最も先進的な液晶オールスクリーン
「iPhone XR」に搭載されたオールスクリーンデザインのディスプレイは映像に圧倒的な没入感と迫力をもたらす。写真はディスプレイいっぱいに表示され、マップアプリはより広いエリアを映し、ゲームにかつてない臨場感を与えるなどiPhone 8以前にはなかった大きな魅力だ。
“業界の中で最も先進的なLCD”を謳うLiquid Retina HDディスプレイはiPhone XSに採用されている有機ELのSuper Retina HDディスプレイに比べてコントラスト(色違い、色のメリハリ)が低く、解像度(精細さ)も低い。同じ画像を表示して比べたところやはり大きな違いがあった。
また、「iPhone XR」のディスプレイはHDR(明るい部分と暗い部分の両方をキレイに、リアルに映し出す映像技術)に対応していないため、YouTubeやNetflix、iTunes Storeなどで配信されているHDRコンテンツを見比べるとさらに大きな違いが生まれる。iPhone XRのディスプレイでも十分に満足できるが、映像の質にうるさい人はiPhone XSを選んだ方が良さそうだ。
厚めのベゼル
ディスプレイを囲う黒いフチ「ベゼル」の幅はiPhone XSよりもわずかに厚い。iPhone 8以前のモデルから買い換えるのであれば気にならないだろうが、iPhone Xから買い換える場合は少し気になるかもしれない。
「3D Touch」と「Haptic Feedback」
「iPhone XR」の液晶ディスプレイは3D Touchに対応していない。3年前から搭載されているにも関わらず圧倒的に知名度が低く、存在感の薄い機能だが、自分を含めた一部の愛用者にとってこれは非常に痛い。
最も痛いのはLINEのメッセージが既読をつけずに読めなくなったこと。3D Touchを使えば既読をつけずにLINEのメッセージが読めることを知っていただろうか。これはiPhoneユーザーだけの特権。Androidにはない機能だ。
ホーム画面のショートカットが利用できなくなったことも地味に痛い。例えば、翻訳したい文章をコピーしてGoogle翻訳アプリのアイコンを深くプレスすると、ペースト不要でスーパースムーズに翻訳できたがiPhone XRでは不可能になった。そのほかにもApp Storeでは赤い通知のバッジを一発で消すことができる「すべてをアップデート」もできなくなっている。
なお、iPhone XRには3D Touchの代わりに「Haptic Feedback」が追加されているが、これはiPhoneが特定の操作を受け付けるとバイブレーションで応答するもの。例えば、ロック画面のカメラを長押しするとカメラアプリが起動すると同時に小さい振動が指に伝わる。3D Touchの代わりになる機能ではなく、フィードバックの質にも違いがあって3D Touchのような“深くプレス”する感触を得ることはできない
発熱・機械学習の処理スピードが大幅に改善された「A12 Bionic」
「iPhone XR」にはiPhone XS/iPhone XS Maxと同じ「A12 Bionic」が搭載されている。性能は上位モデルとほぼ変わらない。ほぼというのはメモリ(RAM)に違いがある。iPhone XS/iPhone XS Maxの4GBに対してiPhone XRは3GBだ。
A12 Bionicは、A11 Bionicに比べて2つの性能コアが最大15%も高速化され、4つの効率コアは最大50%の効率化を実現。4つのGPUコアは50%も高速化されている。昨年発売されたiPhone Xに内蔵される「A11 Bionic」はアニ文字やミー文字を作るときにもたつきを感じることもあったが「iPhone XR」はスムーズでストレスがない。
最大の違いは発熱だ。iPhone XでPUBG MOBILEなど高い処理性能を要求するゲームアプリをプレイすると、熱が発生してストレスを感じることもあったが「iPhone XR」は多少熱くなるだけでストレスなく快適にプレイできる。
電池持ちはiPhone XS Maxよりも長く、これまでに発売されたiPhoneのなかで最も長い電池持ちを誇る、とAppleは説明する。検証するために画面の明るさを最大にしてYouTubeを連続再生したところ、iPhone XS Maxは約7時間で電池が切れた。Androidを含めた様々なスマートフォンを同じ方法で計測してきたがこれは驚異的な電池持ち。対する「iPhone XR」は約5時間となった。iPhone XRのビデオ再生時間はiPhone XS Maxよりも1時間長くなるはずだがそうはならなかった。
ここまで処理性能・描画性能の高速化、発熱、電池持ちについて紹介したが、A12 Bionicの最大の進化はこれから紹介する「Neural Engine」にある。
Neural EngineはA11 Bionicに初めて搭載された機械学習に特化したチップで主に顔認識や画像認識といったシーンで使用される。A12 Bionicでは、コア数が8倍になり、1秒間の処理能力も8倍に大幅アップした。
これにより、顔認証「Face ID」やアニ文字、ミー文字の処理スピードが劇的に向上。カメラではポートレート撮影の精度が改善されるなど既存機能のクオリティが向上。背景のぼかし量を調整できる「深度コントロール」や逆光時の画質を大幅に向上する「スマートHDR」といった機械学習を活用した新機能が追加されている。
ワイヤレス充電と通信スピード
昨年発売されたiPhoneで初めて対応したワイヤレス充電もスピードアップされている。Appleによればフル充電までの時間が30分も短縮されたそうだ。
モバイルデータ通信のスピードはiPhone 8/iPhone 8 Plusと同じ。iPhone XS/iPhone XS Maxがサポートしている4x4MIMOには対応していないため“ギガビット級のLTE”は利用できない。
ドコモは受信時最大794Mbps、auは受信時最大758Mbps、ソフトバンクは受信時最大612Mbpsと公表している。いずれも理論値のため実際のスピードは50Mbps〜230Mbps程度になるようだが、Apple Musicなどの音楽聴き放題サービスやNetflixなどの動画見放題サービスも快適に視聴できた。
大幅に進化したシングルレンズカメラ
「iPhone XR」のカメラはシングルレンズ型ながら大幅に進化を遂げている。
ハードウェアでは、より多くの光を取り込むことでノイズを低減し、クリアな写真が撮れる新しいイメージセンサーを搭載。
ソフトウェアでは、機械学習によって複数枚の写真から最適な明るさ・暗さの部分を選んで1枚に合成することでHDRのクオリティが大幅に向上した「スマートHDR」や撮影中および撮影後に背景のボケ具合を調整できる「深度コントロール」、シャッターを押した瞬間を記録する「ゼロシャッターラグ」にも対応する。
シングルレンズxAIポートレート
「iPhone XR」に搭載されたカメラの最も大きな特徴はシングルレンズながら背景をぼかせるポートレート撮影にある。
2つのレンズを搭載するiPhone XSが被写体との距離を元に背景ぼかしを適用するのに対して、「iPhone XR」は機械学習によって人の顔を認識して背景ぼかしを適用するため、「iPhone XR」では人以外を撮影する場合はポートレート撮影が利用できない。
ポートレート撮影は友だちや家族、パートナーなど人を撮影するための機能だが、ペットや料理を撮影するために使っている人も多い。少しでも美味しそうに料理を撮影したいとはいえお店のなかで一眼レフを出すわけにはいかないし常に持ち歩いているわけではない。ペットを撮影する時もポケットからサッと取り出せるスマホでなければ撮れない表情もたくさんあるはずだ。
とは言え人物以外でもポートレート撮影できるのではないかと思い、様々な被写体にカメラを向けてみたが「誰も検知されませんでした」と表示され、撮影後の写真を確認したが背景ぼかしは適用されていなかった。
今後、iOSの画像認識が進化して人間の顔以外も認識できるようになれば、ペットや料理にもポートレート撮影が利用できるかもしれない。なお、サードパーティのカメラアプリには人物以外でもポートレート撮影が可能なカメラアプリがすでに存在しているため、そちらを利用して代替とすることもできる。
ポートレート撮影の本来の使い方である人物を撮影する場合においてもシングルレンズの「iPhone XR」とデュアルレンズのiPhone XSでは大きく異なる。
iPhone XSの場合、ポートレート撮影にすると望遠レンズに切り替わるため被写体との距離を取る必要がある。望遠レンズは広角レンズよりもF値が大きいため写真が暗くなるが、「iPhone XR」は広角レンズでポートレート撮影ができるため、被写体と距離を取る必要がなく複数人でのポートレート撮影が可能。さらに明るい写真が撮影できるというメリットがある。
ズーム撮影
「iPhone XR」には望遠レンズがないため、ズーム撮影時は画質が劣化するデジタルズームの利用を強制されてしまう。等倍および同じ倍率で比較した写真が以下。許容範囲と評価する人も多いかもしれないが、拡大率の低い2倍ズームでもiPhone XRの写真は輪郭がボケてしまう。
操作性にも違いがある。iPhone XSはワンタッチで等倍と2倍を切り替えられるのに対して「iPhone XR」は画面をピンチアウトしてズームしなければいけない。デュアルレンズのiPhoneを使ったことがない人にとってはこれまでと同じ操作方法だが、ワンタッチズームに慣れてしまった人はシャッターを切るまでの時間が相当長くなるためストレスを感じるはずだ。
ズームの倍率においても違いがあり、iPhone XSの10倍に対してiPhone XRは5倍に留まる。5倍以上のズーム撮影になると画質の劣化が大きくなるため、利用する機会はあまりないかもしれないが、当然5倍よりも10倍の方が良い。
カメラ作例
スピードアップした顔認証「Face ID」
「iPhone XR」は顔を使って画面ロックを解除したり、Apple Payで決済する際に許可を求める顔認証「Face ID」をサポートしている。
これまでの指紋認証は指が濡れていたり、汚れていると画面ロックが解除されず不便なことも多かったが、顔認証であれば指の状態に関わらずロックを解除できる。顔認証は機械学習によって顔の変化や状態も認識するため、化粧をしても、すっぴんでも、髪型を変えても、帽子をかぶっても、メガネをかけても、サングラスをかけても正しく本人であることを認識する。
さらに、iOS 12では容姿をもうひとつ追加することが可能になった。認証されにくい顔を追加登録してFace IDの精度を向上させたり、子どもの顔を登録することで毎回親が画面ロックを解除する面倒がなくなる。
高速化はApple Payの起動時のみ実感
「iPhone XR」のFace IDは機械学習用のNeural Engine、セキュリティ用のコプロセッサ、新しいアルゴリズム等の組み合わせによってFace IDを高速化したとAppleは説明している。
iPhone Xと比較したところ、電源ボタンを2回タッチしてApple Payが起動するまでの時間が少しだけ速くなったと感じたが、すべての状況下でスピードアップを実感できるわけではなく、残念ながら頻繁に利用する画面ロックの解除時に関しては大きな変化がなかった。
2つの回線を使い分けできるデュアルSIM(DSDS)
ようやく「デュアルSIM」がサポートされたことも大きなトピックだ。
デュアルSIMは2つの電話番号・回線の使い分けを可能にするもので、例えば、仕事用の回線とプライベート用の回線を分けたり、高速なキャリアの回線と料金が安い格安SIMの使い分けたりできる。
なお、デュアルSIMをサポートする一般的なスマートフォンは通常のSIMカード2枚によって実現されるが、iPhoneはSIMカードと埋込み型の「eSIM」によって実現されている(中国エリアで販売されているiPhoneは通常のSIMカード2枚方式)
eSIMのメリットは自分でSIMカードを用意する必要がなく、設定画面などからカンタンに加入または契約ができることだ。iPhoneの場合は携帯電話事業者が提供する特別なQRコードをカメラでかざすだけでeSIMを有効にできる。デメリットは携帯電話事業者のeSIM対応が必要になること。また、SIMロックの解除が必要になる場合もある。
ここまで書いておきながらだが、日本国内ではeSIMに対応した携帯電話事業者がないため現時点でデュアルSIMを利用できない。デュアルSIMの使い勝手等については提供後に追記したい。
まとめ:iPhone XRとiPhone XS、どっちを選ぶべき?
Appleは今年発売した新しいiPhoneの販売価格をかなり強気で設定している。SIMフリー版の販売価格はiPhone XSは12万円〜、iPhone XS Maxは13万円〜だ。一方、iPhone XRは9万円〜と上位の2機種に比べれば手が出やすい価格に設定されている。10万円を超えないため心理的ハードルは低い。
高級感・ディスプレイ・カメラにおいてはiPhone XS/iPhone XS Maxよりも劣ってしまうが3万円以上の価格差を考えれば仕方がない。一方、チップの性能はほぼ同じ、新型iPhoneのなかで最も優れる電池持ち(公称値)やポップでカラフルなボディ、扱いやすいポートレート撮影など上位モデルには存在しない魅力もある。
カメラのポートレート撮影で人物だけでなくペットや料理も撮影したい、頻繁にズーム撮影を頻繁に利用する、デザインに高級感を求めたい人はiPhone XS/iPhone XS Max(レビュー記事)がおすすめ。ファッショナブルなデザインや価格にこだわるのであれば「iPhone XR」をおすすめする。
価格で迷っている場合は毎月どれぐらい支払う必要があるのか料金をシミュレーションして欲しい。ドコモ・au・ソフトバンクの3社は様々な割引キャンペーンを展開していて下取りも充実させているため思っているよりも安く購入できるかもしれない。それでも高いと感じるのであれば、格安SIMで利用した場合の料金を確認してみよう。
コメントを残す