カメラ以外の進化がない、そう言われるスマートフォンもAIは急速な進化を遂げています。
ユーザーのプライバシー保護を最優先にするAppleは、これまでAIで大きく遅れていましたが、Apple IntelligenceとiPhone 16シリーズによって、ついに遅れを取り戻す時が来ました、、、来るはずでした。
Apple Intelligenceは、写真から不要なものを消したり、録音の文字起こしなど、Google Pixelがすでに提供している機能をキャッチアップすると共に、Siriの大幅なパワーアップで日常生活を強力にサポートします。
ただ、残念ながらApple Intelligenceは、年内に米国英語向けに提供予定で、日本語対応は2025年と発表されています。つまり、iPhone 16シリーズ最大の魅力が使えるのは発売から3ヶ月以上も先になります。
まだ正式提供されてないApple Intelligenceについてレビューすることはできないため、AI以外の魅力を探ることになりますが、数日使った正直な感想は小規模な改善の連打に留まっているというものです。
目次
カメラコントロール
Apple Intelligenceが使えない現在、最大のアップデートは本体の右側に追加された「カメラコントロール」になります。
将来的にはiPhoneからすべてのボタンが消えるといった噂もあるなかで、Appleはサイドボタンや音量ボタンと同じ物理式のボタンとしてカメラコントロールを追加しました。ボタンは消えるどころかこの2年で3つから5つに増えています。
カメラコントロールを1回クリックするとカメラが起動し、もう一度クリックすると写真または動画を撮影できます。
起動するカメラアプリは、他のアプリに変更することも可能。例えば、Instagramに内蔵されたカメラを起動することもできます。最近では標準のカメラアプリを使わない人も増えているので嬉しいオプションです。
カメラアプリの起動とシャッター機能だけなら一部のAndroidで実装されているシャッターボタンと同じですが、Appleはもう少し機能性を持たせています。
カメラコントロールはMacBookのトラックパッドのように操作することもでき、ボタンを軽く押すと触覚フィードバックと共にコントロールが表示されます。
そのままボタンをスライドすると、ズーム、露出、被写界深度(背景ぼかしの量)などをマニュアルで調整できます。まさにカメラコントロールです。
ただ問題が4つもあります。
1つ目は圧倒的な説明不足。購入直後のセットアップ画面でカメラコントロールに関する説明が表示されますが、カメラの起動と撮影の説明だけです(記憶が正しければ)。軽く押したりスライド操作でマニュアル調整ができるといった説明は一切なし。
Appleの説明不足は今に始まったことではありませんが、とりあえず触ってみれば、操作方法がなんとなくわかるぐらいシンプルで直感的に作り込まれていたことで成立していました。
ただ、カメラコントロールはシンプルでもなく直感的でもなく操作はかなり複雑です。これが2つ目の問題。
この機能を使いこなすためには、クリック・軽く押す・長押し・スライドといった4種類の操作が必要です。1つのボタンにこれだけの操作方法を詰め込めば、とりあえず触ってみたらなんとなくわかる、が成立するはずもありません。
3つ目は感度がシビアすぎること。
これが最大の問題。動いたと思ったら動かなくなり、動かないと思ったら動いたり、、、まあ酷いです。
感度を調整して上手く操作できるようになったと思いましたが、数日触ってみるとやっぱり思ったとおりには操作できずしっくりくる感度が1つもありません(調整できる感度は3段階のみ)
よくあるのがシャッターを切るためにカメラコントロールに指を置いているだけなのに、半押しと認識されてコントロールが表示され、さらに指のわずかな動きをスライド操作と勘違いして勝手に露出やズーム倍率が変わってしまう現象です。
勝手に変わってしまった露出を戻したり倍率の再調整が必要になるため、今のところ手間を無駄に増やしてシャッターチャンスを逃させるだけの機能です。
あと数日使って慣れないなら設定画面から半押し機能をキルして、ただのカメラボタンとして利用することになりそうです。
最後はボタンの配置です。
iPhoneを横向きにして右手でボタンを押すときは、ちょっと遠いものの妥協できます。
ただ、縦向きで撮るときはボタンの位置が下側すぎて右で持っても左で持っても使いにくいです。今は縦向きで撮ることも多いですが、Appleは横向き撮影を優先したようです。
年内に追加予定の「2段階シャッター」機能には期待できそうです。
これはカメラコントロールを半押しすると、被写体に合わせてフォーカスと露出を固定し、そのままクリックして撮影できるというものです。
つまり、カメラ専用機のような操作が可能になります。この機能はカメラコントロールの目玉になるはず。
おそらく提供が遅れているのは、カメラコントロールに指を置いているだけで、露出やズーム等が意図せず変わってしまう問題があるからでしょう。
2段階シャッターは、半押ししてフォーカスと露出を固定したあと、シャッターを押すまでカメラコントロールから指を離さずキープするため、同様の問題が発生すると思われます。
旅行に出かけたくなるProカメラ
スマホのカメラが劇的な進化を遂げたのはいつでしょうか。
イメージセンサーの高画素化?光学手ぶれ補正?高速なオートフォーカス?異なる露出の画像を1枚に合成するHDRの進化?ピクセルビニングなどのコンピュテーショナルフォトグラフィ?長時間露光による夜景モード?
これらすべての技術によってスマホカメラを大きく進化しましたが、劇的な進化をもたらしたのは望遠レンズだと思います。
望遠レンズが登場するまでは、たった1つのレンズでつまらない画角の写真しか撮れませんでした。
もちろんズーム機能はありましたが、低画素なイメージセンサーとデジタルズームの組み合わせによってズームした瞬間にディテールが失われ、画質が大きく劣化することから、なるべくズームしないように写真を撮っていたはずです。
望遠レンズの登場以降は多くの人が積極的にズームするようになりました。望遠レンズはズーム撮影の画質を向上しただけではなく、スマホカメラの撮り方さえも変えたように思います。
最初に望遠レンズを搭載したのはiPhone 7 Plusで光学2倍ズームでした。
光学2倍ズームはテーブルの上に置かれた料理や室内で子どもを撮影するなど、少し遠い距離を撮影するのに最適で扱いやすくiPhone 12 Proまで4年間採用されましたが、iPhone 13 Proで光学3倍ズームに変更されます。
より遠くの被写体を綺麗に撮影できるアップデートは本来なら嬉しいのかもしれませんが、正直なところ光学3倍ズームは扱いづらい画角でした。例えば、テーブルの上に置かれた料理を撮影するには、あまりにも近いため、椅子を引いて食事をするには不自然な距離を取る必要がありました。
望遠圧縮もそれほど強くない中途半端なレンズだったので、2倍ズームに戻して欲しいなと思っていたら、翌年発売されたiPhone 14 Proは画素数が4倍の高画素センサーを搭載し、センサーの中心部をフルピクセルで切り出す光学相当の2倍ズームが復活しました。
こうなると2倍ズームとそれほど変わらない3倍ズームが必要なのか疑問に感じます。
光学5倍ズーム/光学相当10倍ズームのGoogle Pixelや、光学10倍ズームに対応するGalaxyなど他社のスマホと比べると、3倍ズームはあまりにも短いことからスペック上も見劣りしていました。
結局、AppleはPro Maxだけでなく、iPhone 16 Proにも光学5倍ズームの望遠レンズを搭載することにしたようです。
以下の作例は光学5倍ズームで撮影したもの。より遠くの被写体もくっきり撮影できるのはもちろん、望遠圧縮の効果が強化されたことでスマホ離れした写真を簡単に撮影できます。手にしたら旅行に出かけてすべてを5倍ズームで撮りたくなります。
メインカメラには“48MP Fusion”という名前がつきました。
ドラゴンボールを見たことがある人なら“フュージョン”がどういったものかイメージしやすいでしょう。1つに統合されることを意味しますが、“48MP Fusion”は等倍と光学2倍ーー2つの画角が1つのセンサーに統合されていることを意味しているそうです。
ただ、iPhoneが光学相当の2倍ズームに初めて対応したのはiPhone 14 Proだったので、なぜこのタイミングでブランディングすることを決めたのかわかりません。
メインカメラは、名前が変わっただけではなく、48MP ProRAWの写真を撮影した時のシャッターラグもなりました。
例えば走行中の電車も理想のタイミングで撮影できます。超広角カメラで走行中の江ノ電をRAW撮影したところ、カメラコントロールをクリックしたタイミングと実際に撮れた写真がかなりズレていたので、ゼロラグシャッターも“48MP Fusion”だけの機能のようです。
もう1つの大きな進化は超広角カメラです。
イメージセンサーの画素数が12MPから48MPに向上。出力される写真の画素数は12MPで変わらないものの、4つのピクセルを1つに束ねてノイズを抑え、ダイナミックレンジを向上する高画素センサーを活用した画像処理が導入されたことで、理論上は画質が良くなっています。
ちなみに、同じ48MPのメインカメラでは、48MPの高解像度の画像データとピクセルビニングされた12MPの画像データをフュージョンして24MPの写真を作り出す画像処理が存在しますが、超広角カメラには導入されず、通常撮影は12MP、ProRAWは48MPで出力されます。
iPhone 16 Proが光学5倍の望遠カメラを搭載したことでPixel 9 Proとの比較もしやすくなりました。
どちらのカメラが優れているのか気になる人も多いと思うので、撮り比べしたところどちらもスマホ離れした写真が撮れますが、ポリシーは明らかに違うことがわかります。
例えば、夕日になりかけの海や空を撮影すると、Pixel 9 Proはまるで昼や朝に撮ったかのように爽やかに映し出すのに対して、iPhone 16 Proは見た目に近い仕上がりでノスタルジックに撮れます。
料理の撮影ではPixel 9 Proが寒色強めで記録するのに対して、iPhone 16 Proは暖色強めで美味しそうに撮れます。
編集機能は数年前からAIを導入しているPixel 9 Proが明らかに優れています。
Google Pixelが消しゴムマジックに対応したのは2021年のことですが、iPhone 16 Proは邪魔な電線すらも消すことはできません。
来年日本語に対応するApple Intelligenceには、消しゴムマジックと同等の機能を持つ「クリーンアップ」機能が含まれていますが、数ヶ月待つ必要があります。
一方、iPhone 16 Proには、Pixel 9 Proにはない機能も備わっています。
おそらくProモデルを選ぶ人は、ただシャッターボタンを押して写真を撮影するだけでは満足いかず、編集でちょっとした作品に仕上げたいという人も多いと思います。そのためにProRAWで撮ってLightroomで編集するのも良いですが、手間がかかることから敬遠する人もいるでしょう。
そこでおすすめしたいのが最新世代のフォトグラフスタイルで、あらかじめ用意されたスタイルを選び、パッドをグリグリと動かすだけで自分好みにいい感じで編集できます。
また、カメラを構えている間に設定を調整して仕上がりをライブプレビューで確認しつつ撮影することもできます。
これはただシャッターボタンを押して目の前にあるものを撮るといった使い方から卒業するための良いきっかけになる機能だと思います。
ただのフィルタと異なり、追加データによってスタイルを変更するため、いつでもオリジナルを引き出せるのもRAWと同じです。なお、フォトグラフスタイルを適用できるのはHEIC撮影時のみ。RAWやJPEGでは利用できません。
動画撮影では4K/120fpsドルビービジョン、ProRes、最大240fpsのスローモーションビデオに対応するなど、よりなめらかな映像をスマホで撮影できるように進化しています。
ようやく風切り音の低減にも対応しましたが、風切り音が低減されたり、そうでなかったり不自然な音になっています↓
#iPhone16Pro 動画も綺麗よなiPhoneは pic.twitter.com/gXZtOlLZ9Y
— Yusuke Sakakura🍎携帯総合研究所 (@xeno_twit) September 21, 2024
無駄に大きくなったディスプレイ
iPhone 16 Proの画面サイズは6.3インチで、iPhone 15 Proの6.1インチからわずかに大きくなりました。
画面サイズの大型化に伴い、本体は縦に少し長くなったものの幅はほぼ同じです。それでもProモデル史上最高の“神サイズ”だったiPhone 15 Proと比べると、iPhone 16 Proはやっぱり大きく感じます。
重さもProモデル最軽量だった188gから199gに増加しており、手に持ったときの重さはよりずっしりと感じられます。
0.2インチのサイズアップによって操作性が向上したわけでもなく、映像体験が劇的に変わったわけでもないため、このサイズアップが本当に必要だったのか疑問に感じるところです。プロモーション的な効果はあるかもしれませんが、肝心の使用感はマイナスになっているように思います。
見た目の変化では、ディスプレイ周りの黒いフチ(ベゼル)の幅がより狭くなり、見た目も改善されています。その一方で、指が画面に触れてしまい、意図したどおりに操作できなくなる事象を確認しています。特にベッドやソファに寝転がりながら操作しているときに頻発します。おそらくスマホが顔面に落下しないように画面の端を両手で支えてしまっていることが原因でしょう。
ディスプレイの明るさは最大2,000ニト。Pixel 9 Proの3000ニトには及ばないものの、通常使用では十分な明るさです。しかし、晴天の中で行ったカメラテストでは、発熱の影響もあり、画面が暗く感じる場面が多くありました。
逆に最小1ニトまで画面が暗くなる新機能にも対応しています。
暗い寝室でiPhone 15 Proと比較したところ、iPhone 16 Proの方がより暗くなるよう調整されていて、ベッドの中でスマホを操作するときも、一緒に寝ている相手に気を使うことなくスマホを触れるのは地味に嬉しい機能です。
A18 Pro
iPhone 16 Proに搭載されたA18 Proチップは、パフォーマンスが20〜30%ほど向上し、電力効率も改善されています。
Lightroomを使ったRAWの編集やゲームプレイなどiPhone 15 Proと比べましたが、どちらも快適に動作し大きな違いは感じられませんでした。
昨年の発売直後に確認されていた発熱問題は今回は確認できず動作は安定しています。
前世代のチップからパフォーマンスの向上を実感することはできませんが、A18 ProはApple Intelligenceのために設計されたチップのため、その真価が発揮されるのは来年になります。
電池持ちについてAppleは大幅な改善を謳っていますが、この数日間の使用では劇的な改善を感じません。
なお、発売日から2日間ほど設定画面に「デバイス設定が進行中。バックグラウンドでiPhoneの設定手順を完了中です。設定が完了すると、バッテリー駆動時間と熱性能が向上する可能性があります。」とのメッセージが表示されていました。
システムの安定化が完了してメッセージが消えたのは、ここ最近のことなので、また別日に電池持ちを検証して追記する予定です。
高速なMagSafe
iPhone 16シリーズは、次世代のワイヤレス充電規格であるQi2/MPPに対応しています。
Qi2/MPPは、MagSafeと同様にマグネットを活用したワイヤレス充電規格で出力も同じ15Wです。Qi2/MPPの登場でMagSafeの魅力は薄れていましたが、iPhone 16シリーズは、25W出力で高速充電が可能なMagSafeに対応。
有線充電と同様に30分で50%まで充電できるなど、MagSafeならではの魅力を再び取り戻しています。
ただし、この高速充電には新しいMagSafe充電器と30W出力の電源アダプタが必要です。
新しいMagSafeh充電器は、1mのケーブルに充電パッドがついているだけで6000円というあまりにも馬鹿げた価格設定で買う気にならないため、安価で便利なサードパーティ製のスタンドタイプが登場するのを待ちたいところ。
有線充電については、認証情報から最大45Wまたは39W出力に対応していることが確認されています。
ただ、実際にiPhone 16 Proを充電したところ、30Wを超えることもありましたが、ほとんどの時間で出力は20W以下。30Wを超えたのはごくわずかな時間で結局のところ0%から100%までのフル充電には1時間35分かかりました。
まとめ:最大の魅力は来年に
iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxの購入を検討している人の中には、カラー選びに迷っている人が多く、特にナチュラルチタニウムとデザートチタニウムで迷っている人が多いようです。
昨年はナチュラルチタニウムが人気を集めましたが、Apple新宿で実物を見ても何が良いのかわからなかったので、今年は新色のデザートチタニウムを選びました。名前だけではどんな色か想像しにくいですが、色分けするならゴールドです。
ゴールドはiPhone 5sで初めて登場して以来、常に人気のカラーでしたが、昨年はラインナップから外れました。つまり、デザートチタニウムはチタニウム素材を使用した初めてのゴールドカラーになります。
デザートチタニウムは、一般的なゴールドではなく、少し赤みがかったブロンズっぽさのあるゴールドです。側面のフレームは背面よりも深みのある色合いで、実質的にはツートンカラーと言えます。また、今年のチタニウムはマイクロブラスト加工が施されており、手触りが昨年よりも滑らかで、少し滑りやすいですが、指紋が目立ちにくい仕上がりになっています。
最終評価をしましょう。冒頭にも買いたとおりApple Intelligenceを除いたiPhone 16 Proは小規模アップデートの連打に留まっています。
明らかなのはiPhone 15 Proから買い換える必要はないということです。
Pro史上最軽量のボディは今も魅力的で日本人の小さな手にはベストなサイズ感だと思います。Appleは販売を終了しましたが、今もどこかで安く購入できるならiPhone 15 Proを購入し、浮いたお金でAirPods 4やApple Watch Series 10の購入資金に充てるのも悪くありません。
Apple Intelligenceにも対応するため、主な違いはカメラコントロールと光学5倍の望遠カメラ、48MPの超広角カメラぐらいのもの。昨年公開したレビューでiPhone 15 Proは、S+アップデートで買うべきタイミングと評価しましたが、その評価は間違ってなかったと思います。
ただ、それでも多くの人が最新モデルに惹かれるはず。iPhone 13 Pro以前のモデルを利用しているなら背中を押せます。
12MPから48MPまで高画素化したイメージセンサーと大幅に進化したコンピュテーショナルフォトグラフィによってカメラの画質は大幅な向上を実感できるはず。また、一度使うと手放せない常時表示ディスプレイ、屋外でもより見やすくなった明るいディスプレイ、高精度なGPS、機能性のないノッチからダイナミックアイランドに進化し、iOSを使用する上で最もストレスを感じるバッテリー残量低下の警告ともさよならできます。
充電端子はLightningからUSB-Cに変更され、MacやiPadと利用してる人なら持ち歩く充電ケーブルを1つに減らすことが可能。本体の形状は丸みが増しエッジが削られたことによって持ちやすく改善されています。
iPhone 16 ProのApple価格は昨年と同じ159,800円に設定されています。端末の返却等を条件に割安で購入できるキャリア価格はこちらで確認してください。
カンタンなタップ操作でキャンペーンや下取り、毎月の通信費用込みで料金計算できるシミュレーターも開発したのでこちらからどうぞ。