- KDDIは4G頻度を5Gに転用し、エリア拡大に努めた結果、急速なトラフィック増大にも対応できた。
- パケ止まり防止手段は、エリア端での5G保持、アンカーバンドの積極的誘導、システム間干渉の最小化がある。
- KDDIは品質データを自動収集・自動分析し、基地局トラフィック監視・分散を自動化、対応時間を大幅に短縮。
携帯電話の通信品質に再び注目が集まっています。
2020年に5Gがスタートしたものの、コロナ禍によって外出する機会が大幅に減少。しかし2023年にコロナ禍が明けて一気に外出する機会が増えて、屋外でスマホを利用する機会が増加しました。
外出が増え出した2023年春ごろから電波もギガもあるのに通信が進まないーーいわゆるパケ詰まり/パケ止まりが起きているとの声を聞くことが多くなりました。
KDDIは15日に開催した通信品質向上の取り組みに関する記者説明会にて、パケ止まりがどのように起きるのか、その対策とパケ止まりの改善について説明しました。
アフターコロナの急激な負荷増加に耐えたエリア設計
KDDIはこれまでの5Gエリア整備の期間を5G導入期と位置付けて、より広範囲をカバーできる4Gの低い周波数を5Gに転用することで5Gのエリアを積極的に拡大。
特に生活動線を優先して鉄道・商業地域を重点的に整備しています
エリア整備を進める中で2020年3月に5Gがサービスを開始するものの、コロナ禍が始まったことで人が外に出なくなり、トラフィックにも大きな変化が発生します。エリア整備はトラフィックの変化を確認しながらも行われますが、人が家から出なくなり、トラフィックも変化しなくなったことでエリア整備が難しくなったことは容易に想像できます。
そしてコロナ禍が明けたことで人の外出が急激に増加。KDDIは「一気に生活動線におけるトラフィックがガーッと上がってきた」と説明します。それでも生活動線を優先して5Gのエリア展開を進めてきたことで、アフターコロナで急激に増大したトラフィックにも対応できたと語ります。
パケ止まりが起きる理由と対策
KDDIのエリアは4G時代に構築した「LTE」をベースに、5G普及期に整備した4G周波数を5Gに転用した「5Gカバレッジ」、そしてこれからエリアを2倍に拡大させていく高速・安定した通信速度を提供する「5G大容量」の3つの層で構成されています。KDDIはパケ止まりが発生する理由について以下3つにまとめています。
- エリア端における弱電波の5G保持
- アンカーバンドの積極的な誘導による周波数の逼迫
- 同周波数による4G↔︎5Gシステム間干渉発生
エリア端における弱電波の5G保持
1つ目はエリア端と言われる電波の弱い場所にて、微弱な電波をキャッチし続けることでしまう現象で、KDDIは「そこ(エリア端)にユーザーの端末が留まりすぎてしまうことでパケ止まりが起きる」と説明します。
また、事業者としては5G端末を買った人には5Gを利用して欲しいと思いがあり、できるだけ5Gの電波を掴んでもらえるようなセッティングをしたくなる一方で、やりすぎるとパケ止まりが起きることから「常に常に品質を見てデリケートなチューニングをして無理をせず4Gに切り替えている」とのこと。
アンカーバンドの積極的な誘導
5G(NSA)は4Gバンド、アンカーバンド、5Gバンドで構成されていて、5Gに接続するには必ずアンカーバンドを先につかむ必要があります。
しかし、5Gの普及率が上がると中継役のアンカーバンドが混雑してパケ止まりが発生しやすくなります。
そこでKDDIはアンカーバンドのトラフィックを常に注視して混雑しているときは4Gバンドに中継してトラフィックを分散することでパケ止まりを回避しているとのこと。
同一周波数によるシステム間干渉
KDDIは4G用の周波数を5Gに転用することで、5Gエリアを急速に拡大させてきましたが、4G用の周波数を一気に5Gに転用するわけではありません。
そのため、同じ周波数内でも5Gに転用したエリアと、転用前の4Gエリアの境目ができます。同じ周波数なのに異なるシステムがもたらす干渉によって品質が悪化するとのこと。
対策として干渉エリアにおいて5Gのチルトと出力を下げ、4Gも若干出力を下げるチューニングで干渉を最小化しています。
パケ止まりの改善状況
上記のグラフはKDDIのパケ止まりの基準をもとに4キャリアの発生率を示したもの。
A社は同じ戦略で5Gのエリア整備を行ってきたソフトバンクのようで、KDDIは昨年4月の段階でリードされていたものの直近では同等のところまできたと評価します。
B社とC社はグラフの色からドコモと楽天モバイルであることが予想され、今パケ止まりに苦しむドコモの発生率はKDDIやソフトバンクの2倍以上を記録。
楽天モバイルについては4Gの周波数も基地局も他社ほど充実していないことから、KDDIやソフトバンクと同じ戦略を取ることが難しいはずです。
自動化によるリアルタイム性のある品質向上
品質向上の取り組みとしてKDDIは検知→分析→対策→検知…のサイクルをいかにスピードを上げて回していくかが重要とします。
検知では端末ごとの品質データやSNSに投稿された利用者の声を自動収集を行い、分析ではビッグデータによる要因分析の自動化、対策では基地局トラフィックの監視・分散自動化を行うことで対応時間を約85%も短縮できたとのこと。
また、1秒でも早く高品質な通信を利用できるように、収集したデータをもとに対策を打つデータドリブンも自動化。
端末・基地局・コアネットワークの品質情報を自動収集して共通データ分析基盤に蓄積して一気に分析をかけ、分析においても品質の劣化要因を自動分類することで分析時間の80%の短縮を実現。輻輳を検知次第、自動的にトラフィックバランスをコントロールする対策についても導入済みと説明します。
質疑応答
現在はエリア端において出力を下げてパケ止まりを対策しているが、これからは5Gのエリア拡大のためにSub6の出力を上げるとのことだが、エリア端におけるパケ止まりに影響はないのか
Sub6の出力を上げることでエリアカバレッジは広がるが、逆に隣のSub6と重なる部分もあって補う部分がある。また、4Gの周波数転用で5Gエリアを面で構築しているため、Sub6の出力のしきい値に気をつけて、エリアを広げたからといって無理にSub6を掴みすぎないようなチューニングをしていく。弱電波でパケ止まりにならない時点で、NR周波数にハングダウンしてそこで5Gを快適に使っていたたける。
アンカーバンドのパケ止まりにおいてKDDIが他社に勝るポイントは?
他社と比較すると負荷を分散する4Gの周波数に猶予がある
他社は相当苦労している中、KDDIは余裕でやってるようなような感じがするが、他社と何が違うのか
決して楽勝ではなく、日々品質管理と向き合っている。地道に都度劣化したポイントを見つけては対策を講じている。地道な作業の結晶。
5G SAについて
これから5G普及期に入ると5Gのトラフィックが増加し、SA時代になると一層5Gの帯域依存になる。5G SAと既存周波数の面的な5Gのバンドと合わせて、Sub6やミリ波を重ね、5Gの高品質・高速・低遅延なネットワークの構築に向けて入念に計画を作り上げて実行していきたい
品質向上において活用しているビッグデータというのはどういったものか
共通データ分析基盤のこと。主に4つに分類される。端末で取得しているデータ→アプリログ、基地局で収集されている統計データ、体感品質データ→ネットワーク上のモニタリングデータ、お客様の声→SNSやユーザの申告データを4つ掛け合わせて、品質劣化が大きい場所から対策をすることをしている。
体幹品質データとは?
利用者の5G端末とサーバー間で、どの程度レスポンスタイムがかかっているかをサーバー側に集積し、どれぐらいのレスポンスタイムであれば、満足度が劣化しないかをアンケートをもとに一定の基準を決めて、その基準よりもレスポンスタイムが長くなっている通信のログを対象に、レスポンスタイムを短くする取り組みを日々実施している。
これからKDDIが5G普及期と位置付ける2024年度以降においては、高い周波数でより高速に通信ができる5G新周波数を一気に2倍に拡大させる予定です。5G普及期におけるエリア拡大については別記事にまとめています。