スマホ新法のガイドライン公開。何が変わる?Appleの懸念は解消されたか
Yusuke Sakakura

Yusuke Sakakura
ブログメディア「携帯総合研究所」を運営しています。学生時代に開設して今年が16年目。スマートフォンの気になる最新情報をいち早くお届けします。各キャリア・各メーカーの発表会に参加し、取材も行います。SEの経験を活かして料金シミュレーターも開発しています。

公正取引委員会が、2025年12月8日に施行予定の“スマホ新法”に関するガイドラインを公表しました。
現在のスマホ市場は、AppleやGoogleといった巨大プラットフォーマーが支配的な地位を占めており、新しいサービスの参入が難しい状況になっています。スマホ新法は、こうした強い立場を利用した不当な制限行為を禁止し、公平に競争できる環境を整えて、市場の健全な競争を促進することを目的として導入されるのがスマホ新法です。
これまでは独占禁止法によって対応が図られてきましたが、違反かどうかの判断が難しく、立証にも時間がかかるという課題がありました。
スマホ新法の導入によって、OSやアプリストア、ブラウザ、検索エンジンなどを対象に、事前に禁止事項や遵守すべきルールを明確化し、違反に対しては罰則も設けることで、支配的行為を未然に抑制する仕組みが導入されます。
本記事では、スマホ新法によって何がどう変わるのか、主要なポイントを解説します。
新しいアプリストアの誕生、App Store以外の選択肢も
スマホ新法によって、アプリストアの選択肢が広がる可能性があります。
これまでAppleはApp Store以外のアプリストアを制限していましたが、今後はサードパーティ製のアプリストアも提供可能になります。
ただし、セキュリティの観点から、AppleやGoogleといった指定事業者が審査を行い、安全性を欠くストアの提供を拒否できる余地が示されています。これにより、競争を促進しつつ、ユーザーが安心して利用できる環境が保たれます。
なお、初期の案に含まれていたアプリストア等を経由せずに、アプリを直接インストールするサイドローディングについても、サイバーセキュリティの確保などを理由に、指定事業者が制限を設ける余地は引き続き残されていると読み取れます。
Kindleアプリで電子書籍が直接買える?
現在、Amazonはアプリストア版のKindleアプリに決済システムを導入しておらず、購入ページへのリンクも設置していません。
これは、独自決済やアウトリンクに制限があり、プラットフォーマーの決済システムを使う場合に最大3割の手数料が発生するためです。
スマホ新法では、アプリ内に独自の決済システムを導入することを制限する行為が禁止されます。
また、独自の決済機能を採用していることを理由に、アプリストア内の検索順位を下げたり、不当な手数料を課したり、自社決済への誘導といった行為も禁止されます。
さらに、アプリ内から外部のウェブページにリンクする、いわゆるアウトリンクを不当に制限する行為が禁止され、価格や割引額などの価格情報を誘導に利用することも認められるようになります。
これにより、Kindleアプリから離れることなく電子書籍を購入できる可能性が出てきました。
ブラウザエンジンの解放
指定事業者が特定のブラウザエンジンの使用を強制する行為も禁止されます。
例えば、iOSではWebKitエンジンの使用が義務付けられており、ChromeやFirefoxといったブラウザであっても、Safariと同じエンジンが使われていました。
法施行後は、PCと同様にGeckoやBlinkなど、独自のブラウザエンジンを搭載したアプリもiOS上で利用可能になる見込みです。
これにより、例えばWebKitに脆弱性が発見された場合でも、別のエンジンを搭載したブラウザで回避できるなど、セキュリティ面の柔軟性が高まります。
一方で、各エンジンによってHTMLやCSS、JavaScriptの解釈に差があるため、表示崩れが起きたり、その修正が求められる開発者の負担が増えることになりそうです。
Appleの懸念は解消されたか
このほかにも、デフォルトアプリの選択・変更、検索サービスでの自己優遇の禁止、利用者データの取得・使用の透明化、データ移行の簡素化なども盛り込まれています。
スマホ新法の対象となる指定事業者から提出されたパブリックコメントも公開されています。
Googleは、ユーザーの利便性は極めて重要であり、たとえ競争を促進するための規制であっても、それを損なってはならないと指摘。この考え方を「正当な理由」として明記するか、ガイドライン上の判断要素に含めるべきと求め、その意見を受けて実際にガイドラインは修正されました。
より大きな影響を受ける可能性があるAppleは、より踏み込んだ具体的な懸念を示しています。
例えば、OS機能の解放について「Apple自身も使っていないような深いレベルのAPIまで開放するよう求められるおそれがある」と懸念を示しました。
さらに、こうした解釈がEUにおけるデジタル市場法(DMA)と同様の影響を及ぼす可能性にも触れています。
実際、EUではDMAの影響により、iOS 26で提供予定のいくつかの機能が利用できない見込みです。
そのなかには、ユーザーが訪れた場所を記録して、あとから振り返られるといった機能や、昨年追加されたiPhoneをMacから直接操作できるiPhoneミラーリングなども含まれています。
こうした状況が日本でも再現されることをAppleは危惧し、たとえば新型コロナウイルスの接触確認機能を出会い系アプリが使えないように、「OS機能の使用は、指定事業者と同じユースケースである場合に限る」といったルールを明確にするよう要望しています。
これに対して公正取引委員会は、OSの機能を自社のみが優先的に利用し、他の事業者に対して同じレベルで提供しない行為は禁止対象になると回答。
また、サイバーセキュリティの確保などを目的とした必要な制限については、他に手段がない場合に限り、スマホ新法には違反しないとしています。
さらに、個別のケースについては事情等を踏まえ、個別に判断するという、柔軟な方針を示しました。実際に運用されるまでAppleの懸念は完全に払拭されないものの、最終的な内容は前向きなものになったのではないでしょうか。
当初はサイドローディングの制限禁止など、過度な競争促進が懸念されたガイドラインですが、セキュリティやプライバシー、ユーザー保護を理由とした一定の制限を認める内容に修正されたことで、体としてはおおむね歓迎できる内容に落ち着いたと評価できます。
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