スマートフォンの2大トレンドは「折りたたみスマートフォン」と「AI」です。
スマホの成長は何年も前から止まったと言われていますが、折りたたみスマホとAIについては、短期間で飛躍的な成長を続けています。
両分野の最前線にいるメーカーがSamsungで、毎年完成度を高めている折りたたみスマホに今年発表したばかりのGalaxy AIを統合したGalaxy Z Flip6を発売しました。
今回はSamsungがコンパクト折りたたみAIフォンを謳うGalaxy Z Flip6をレビューします。
サムスン電子ジャパン
Flipフォン2.0 +α
前モデルのGalaxy Z Flip5は、“Flipフォン”に新たな価値を生み出すビッグアップデートでした。
本体を閉じたまま操作できる巨大化したカバーディスプレイがもたらす新しい体験と、本体を完全に閉じれるようになった新しいヒンジが実現した洗練されたデザインを高く評価しました。
- Flipフォン:半分に折りたたんでミニバッグや胸ポケットなど小さなスペースに入れて持ち運べる
- Foldフォン:タブレットサイズのディスプレイをポケットに入れて持ち運べる
ただ、同時期に発表されたFlipフォンのmotorola razr 40 ultraが本体を閉じた状態で巨大なカバーディスプレイで多くのアプリを起動できるのに対し、Galaxy Z Flip5は片手で数えるほどしかアプリを起動できなかったので、革新的な進化を意味するFlipフォン2.0に届かず、Flipフォン1.5とやや低めに評価しています。
それでもレビューの公開から数ヶ月後にほぼすべてのアプリを起動可能になったことでFlipフォン2.0に昇格。
現在は、本体を閉じた状態でも巨大化したカバーディスプレイでPayPayのQR/バーコードを表示して決済したり、スマートリモコンアプリのNature Remoでエアコンをオンにするなど家電の操作も可能です。
もちろん、Galaxy Z Flip6も同じように本体を閉じた状態でも制限なくアプリを起動できます。ただ、制限なくアプリを起動するには、導入手順が複雑で存在自体も知られていないGood Lockアプリを使う必要があります。この制限は不要ですし、必要だとしてももっと簡単に制限を解除できるようにすべきです。
折りたたみスマホとしての進化
1年前の革新的な進化に対して、Galaxy Z Flip6は折りたたみスマホとしてはマイナーアップデートに留まります。
メインディスプレイのシワが目立たなくなり、スクロール時に指で感じる凸凹が改善。改良されたアーマーアルミフレームがマット仕様になったことで見た目と質感が向上、フレームとヒンジ部分も傷つきにくくなり、防水防塵はIPX8からIP48に向上しました。
一方で、期待していたカバーディスプレイの巨大化や本体の小型化・軽量化は実現せず残念。
カバーディスプレイで映像を確認しながら撮影できる折りたたみスマホならではの撮影方法は相変わらず魅力的。自撮りやグループショットはもちろん、子どもにカメラを向けると、自分の姿を見るのでカメラ目線かつ自然な笑顔の表情で撮影できます。
今作からハンディカムスタイル用のインターフェースが用意されていて、動画撮影時には親指を上下するだけでズームできます。
カメラと電池持ち、弱点を克服
前モデルで感じた不満と改善すべきポイントは「カメラ」と「電池持ち」の2点ですが、最新モデルではどちらも大きく改善されました。
前作でミッドレンジクラスと評価した12メガピクセルのデュアルカメラは、Galaxy S24シリーズと同じ50メガピクセルのイメージセンサーを搭載。
4倍に向上した高画素センサーが実現する光学相当の2倍ズームに対応することで、机に置かれた料理や室内で写真を撮影する時も最適な画角を高画質で撮影可能になりました。
さらに、RAW撮影にも対応したことでスマホ離れした作品風の写真に仕上げることもできます。
電池持ちに大きく影響するバッテリーは板型のGalaxy S24と同じ容量かつFlipフォンとして最大の4,000mAhを搭載することで大きく改善されました。
参考までにとある1日のバッテリーレポートをお伝えします。
画面の明るさを自動調整にした状態で10時40分に充電器から取り外して外出。Googleマップで目的地までの経路検索を行い、電車に乗っている時間はNotionでバッテリーテストのメモをしたり、RSSリーダーを確認。目的地についてGalaxy AIを使って文章を生成したり、画像生成などを行っていると15時には50%に減少しました。
その後もYouTubeで動画を再生したり、Lightroomを使ったRAWの画像編集を行うと19時30分には電池残量が15%に。その日は合計160枚以上の写真を撮影し、画面オンの時間が5時間を超えて日付が変わるころに電池切れになりました。
Galaxy Z Flip5は同様のテストで画面オンの時間が4時間20分で電池が切れたので電池持ちは明らかに改善したと評価できます。
これぐらい電池が持てば日常生活はスマホのみ、旅行などでヘビーに利用するときはモバイルバッテリーと合わせて使用することで不満はないはず。
バッテリーは最大25W出力で急速充電できます。「Anker Prime 100W GaN Wall Charger」と「CIO 液晶ディスプレイ搭載 USB Type-C 充電ケーブル」で充電したところ1時間30分程度でフル充電になりました。神ジューデンを謳うような充電速度をウリにしている機種に比べれば遅いものの許容範囲です。
最新チップと初のベイパーチャンバーを搭載
チップセットには、上位モデルGalaxy S24シリーズと同じ最新のSnapdragon 8 Gen 3 for Galaxyを搭載。
高性能なオンデバイスAIを動作させるために必要なメモリ容量は前モデルの8GBから12GBに増えました。
性能は不満なし。Galaxy AIによる文章の生成や翻訳、要約、待受も含めた画像の生成も引っかかりなく軽快に動作します。
ベンチマークスコアは以下のとおりです。
ベンチマーク | スコア |
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Geekbench 6 |
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3DMark WLE |
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3DMark Solar Bay |
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3DMark Steel Nomad Light |
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3DMark WLE Stress Test |
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発熱対策には、チップから発生した熱を一箇所に留めず拡散することで熱を逃げやすくしてパフォーマンスを維持するシリーズ初のベイパーチャンバーを搭載しました。
それでも写真を撮るためにカメラを構えたり、ディスプレイが直射日光にさらされるような環境では発熱を感じ、熱を抑えるために画面の明るさが落ちて見えづらくなることも多々ありました。
ただ、2024年は35°Cを超える猛暑続きの夏になっていて、どの機種も似たような現象が確認されています。
折りたたみAIフォン0.1
Galaxy Z Flip6には、折りたたみスマホとして初めてSamsungのAI技術「Galaxy AI」が統合されています。
「搭載」ではなく「統合」されているのが1つのポイントで、GeminiアプリやChatGPTのように、AI専用のアプリを起動して、検索や質問したり、何かを生成するのではなく、各アプリに備えられたキラキラのボタンからGalaxy AIを利用できます。
文章生成
例えば、Samsungキーボードにあるキラキラのアイコンをタップすると、単語を入力するだけでAIが文章を作ってくれます。
“明日 休みます”と入力すると「明日、休暇を取得させていただきます。急なご連絡となり申し訳ございません。ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。休暇中は、電話やメール等の連絡は控えさせていただきます。ご多忙のところ恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。」といった休むときの言い訳をAIが考えてくれます。
このほかにも、AIに入力した文章のスタイルをビジネス用途やフランクに変えさせたり、文章の校正を任せることもできます。
残念なのは文章の生成機能がSamsungキーボードに依存していること。
というのもSamsungキーボードは、フリックのみ入力できず、キーボード起動時に日本語ではなく英語から始まることが多い、日本語入力時にスペースが全角で出力されるなど、正直使いにくい。
AI活用して文章を生成すること自体はChatGPTなどでも可能なことから、Samsungキーボードに依存せず、Gboardなど他社のキーボードでも広く使えるようになると嬉しいところです。
画像生成・イラスト生成
Galaxy AIは画像生成やイラスト生成も可能で、例えば適当に入力した絵をAIがより優れたものに書き換えたり、写真からアバターを作ってくれます。
デモが発表された事前の発表会では、取材する記者たちも大きく沸いていましたが、筆者は何度も使うような実用的な機能とは思えませんでした。
実機を手にしても一度しか利用せず。確かにAIでここまで自然に(デモはもっと精巧な画像やイラストが生成されていた)生成できるようになったという興味深さはあるものの、これが日常的に利用するような機能になるとは思えません。
現時点では、AIでこういったことができるというパフォーマンス的な機能で数年後には姿を消しているか、使われない機能になっている気がします。
コミュニケーション・翻訳
最も実用的な機能がコミュニケーションで、Galaxy AIのコミュ力は明らかに他社のAIよりも優れています。
例えば、通訳アプリでは、海外旅行のレストランで注文する時の会話をリアルタイムに翻訳・文字起こししながらコミュニケーションできるほか、新機能のリスニングモードを使って一方的に話を聞くGalaxy Unpackedのような他言語イベントでも便利に利用できます。
肝心の翻訳精度は海外では高く評価するレビュー記事も見かけましたが日本語はイマイチ。時間をかけながら精度は向上していくはずですが、DeepLやみらい翻訳など、日本語にも強いAI翻訳と提携するなどして早々に精度を高めて欲しいところ。
リアルタイム通訳は音声通話でも利用できます。
例えば、現地のお店やタクシーに忘れ物をして、現地の言葉で会話が必要な時でも通話アプリに内蔵された通訳機能を使って店内や車内に忘れ物がないかを確認できます。
リアルタイムな通訳機能は標準の通話アプリはもちろん、新たにLINEやInstagramの通話機能でも利用できます。
カメラと写真編集
カメラでは、人など被写体を検知して、AIが良い感じにズームして画角を調整してくれて、簡単に置き撮りできる新機能「オートズーム」を利用できます。
自然に建物や人などの大きさを変えたり、消したり、場所を移動したり、回転できるAI編集や通常の動画をスローモーション動画に変換できるインスタントスローモーション、写真に奥行きを出すライブエフェクトなど、生成AIパワーによる強力な編集機能も備えています。
本体を閉じたままChatGPTも
Good Lockアプリを使って制限を解けば、カバーディスプレイでChatGPTやPerplexityといったチャットボットAIを利用することもできます。
ただ、キーボードで画面が埋め尽くされてしまう上に、文字入力しにくいSamsungキーボードの使用を強制されるので、音声入力を利用するとスムーズに利用できます。
まとめ:始まったばかりの折りたたみAIフォン
Galaxy Z Flip6は、折りたたみスマホとGalaxy AIが初めて統合された“コンパクト折りたたみAIフォン”を謳っています。
先行搭載されたGalaxy S24シリーズでも利用できる魅力的なAIを折りたたみスマホで堪能できるほか、折りたたみスマホならではのAIの使い方もあります。
話している内容の翻訳と書き起こしを本体の内側と外側のディスプレイに表示する通訳・翻訳機能は折りたたみAIフォンの代表的な機能です。
統合はまだ始まったばかりで、今後も折りたたみスマホならではのAIの進化に期待したいところ。7年間のアップデート提供が保証されていて、AIも急速な進化を遂げている最中なので、7年後には別物と言えるほど進化している可能性もあります。
Galaxy Z Flip6と購入を悩むライバル機種は、日本発売が予告されている同じFlipフォンの「motorola razr 50 ultra」になるでしょう。
端から端まで有機ELで覆われた巨大な4インチのカバーディスプレイを備え、IP52からIPX8に向上した防水性能、広角と光学2倍の望遠で構成されるデュアルカメラ、45Wの高速充電、Snapdragon 8s Gen 3チップを搭載し、昨年は見送られたFeliCa対応も期待できます。
より洗練されたデザインでアクセサリも豊富なGalaxy Z Flip6は、スペックだけでなく見た目も重視したい人におすすめ。巨大なカバーディスプレイで、より快適にアプリや機能を操作したい人はmotorola razr 50 ultraの日本発売が確定するまで待っても良いでしょう。
Galaxy Z Flip6は、ドコモ / au / Samsungオンラインショップで購入できます。
ドコモは256GBのみを販売します。機種代金は175,560円。端末を返却すると85,800円の支払いが不要になるため、負担金は89,760円になります。
auは256GBと512GBを販売します。256GBの機種代金は169,800円。端末を返却すると75,000円の支払いが不要になるため、負担金は94,800円になります。なお、auオンラインショップでは、最大22,000円の割引が適用されます。
Samsungオンラインショップの販売価格は256GBが159,000円、512GBが177,700円です。
UPDATE:2024/08/01初出時、カバーディスプレイが液晶とお伝えしましたが有機ELの誤りです。お詫びして訂正します。