公正取引委員会が1円スマホ問題について調査を行い、携帯電話事業者(MNO)および端末販売代理店の行う極端な廉価販売が不当廉売に該当し、独占禁止法違反にあたる恐れがあるとの考えを示しました。
同委員会は携帯電話事業者および販売代理店の取引を対象に独占禁止法上の問題について監視を強化し、独占禁止法違反行為が認められた場合には、厳正に対処するとしています。
同調査ではスマートフォンがメーカーから消費者の手に渡るまでの流通実態や廉価販売の割合がiPhoneよりもAndroidが高いことなど、興味深い内容も明らかにされています。
調査の経緯
公正取引委員会は2021年6月にスマートフォンの返却や再購入を条件にした端末購入サポートプログラムに独占禁止法上、問題の恐れがあると指摘した上で自主的な改善を要請求めました。
その後、携帯各社から改善結果の報告(例:auとソフトバンクはスマホの再購入を伴わないサポートプログラムを発表)を受けたにも関わらず、不当廉売につながるおそれがある1円スマホ販売など極端な廉価販売(当調査では消費者の負担額が1,000円以下になるスマホ販売と定義されている)が始まったことが調査の背景にあります。
調査期間は2022年1月1日から6月30日まで。携帯4社と販売代理店との取引、各MNOが販売代理店に販売したスマートフォンのうち、MNOまたはブランドごとに販売台数上位の iPhone20機種、 Android20機種の計40機種が調査対象になっています。
調査対象・調査方法 | ||
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対象期間 | 2022年1月1日から6月30日まで | |
対象取引 | ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルと、その販売代理店(関東地方に所在する店舗を運営する事業者)との間の取引など | |
対象機種 | 調査対象期間中に各MNOが販売代理店に販売したスマートフォンのうち、MNO(又はブランド)ごとに販売台数上位の iPhone20機種、 Android20機種の計40機種 | |
調査方法 |
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スマホの1円販売は独禁法違反の恐れあり
2019年10月1日の法改正によって、公正な競争を促進するためにセット販売時の値引きなど利益提供について通信契約の継続を条件とする行為が一律禁止になり、端末の値引きは原則として上限2万円に制限され、縛りと言われる期間拘束や高額な違約金など、行き過ぎた囲い込みが是正されました。
しかしながら、原則上限2万円の値引き制限には、端末のみ販売とセット販売を同じ条件で販売するのであれば2万円以上の値引きなどの利益提供を可能にする例外によって、スマートフォンの1円販売など極端な廉価販売が行われることになります。
公正取引委員会は今回の調査において、スマホの1円販売など不当な廉価販売がもたらす影響について各所への調査を実施。
家電量販店は携帯ショップの方が極端に安い価格で買えること、および販売方法が拡大することでSIMフリー端末の取扱いを伸ばしていく上での障害になり得ると回答し、中古端末取扱事業者は極端な廉価販売によって中古市場価格も低くなり、赤字で販売することもあるとして収支が悪化し続けた場合には、事業活動に顕著な影響が出るといった可能性もあると回答しています。
さらに、MVNOは極端な廉価販売の訴求力が強いことから、消費者がMVNOに来る前にMNOに刈り取られてしまうと回答。
これを受けて公正取引委員会は1円スマホ販売など極端な廉価販売によって、家電量販店や中古スマホを販売する事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合は、不当廉売として独占禁止法上問題となるおそれがあると指摘しました。
また、携帯電話事業者からスマートフォンを仕入れて消費者に販売する代理店についても、代理店独自の値引きなどによって採算を度外視する価格によって継続的に販売する行為が同じように独占禁止法上問題となるおそれがあるとしています。
代理店の利益はMNP獲得に依存している
同調査では携帯電話事業者が販売代理店を一定期間ごとに自社の基準で評価(販売代理店評価制度)し、評価ランク等に応じて販売代理店への支払金を決定していたことも報告されています。
また、販売代理店においてスマートフォンやアクセサリー等の販売収入による粗利益はほとんどなく、一部の携帯電話事業者がMNP獲得を重視した評価指標を設定するなど、販売代理店の利益はMNOからの支払金に依存していたとのこと。
MNP獲得を重視した評価指標が直ちに問題になることはないものの、聞き取り調査で携帯電話事業者が設定する指標は代理店の通常の営業活動で達成できない水準であり、MNP獲得ための手段として代理店が極端な割引を独自に実施せざるを得ないことが明らかになっています。
このようにMNPを重視した評価指標が間接的に極端な廉価販売につながっており、同委員会は独占禁止法上問題となる不当廉売の原因になり得ると指摘。
また、販売代理店に対して利益を上回る費用負担を生じさせるにも関わらず、大幅な値引きの販売の実施を余儀なくさせる場合は、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題になり得ると報告されています。
以前の調査で販売代理店評価制度については、携帯電話事業者に対して代理店からの意見をできるだけ考慮することが望ましいとの考え方が示されたものの、今回の調査では、どの販売代理店でも半数が協議の制度がなく、行われたことがないと回答。20〜30%が協議が行われたことがあるが、意見を取り入れてもらえたことがないと回答したことから、前回の調査から改善されていないようです。
スマートフォンが消費者の手に渡るまで
公正取引員会はスマートフォンの販売方法に関する調査結果も公表しています。
調査によれば主要4社はメーカーから仕入れを行い、販売代理店を単数または複数経由して消費者の手に渡っており、販売価格については買取仕入れを行う4社のうち3社は販売代理店が自身で店頭販売価格を設定し、1社は委託仕入れによってMNOが店頭販売価格を設定しているとのこと。
また、代理店を経由した販売は9割を占め、オンラインショップでの販売はわずか1割にとどまっています。スマートフォンが高額であることから購入する前に自分の手で実機を操作したり、販売員に相談したい人は多いのかもしれません。
スマホの激安販売はiPhoneよりもAndroidの割合が高い
1円スマホなど問題となっている極端な廉価販売が行われた販売台数の割合は14.9%で、値引き前の価格帯別では4万円未満の機種が約3割を占める一方、10万円以上の高価格帯の機種の割合はわずか1.6%にとどまっています。
スマホの激安販売ではiPhoneが優遇されているとの声もよく耳にしますが、iPhoneの11.9%に対してAndroidは19.9%と割合が高くなっています。これには低価格な機種がAndroidに集中していることも影響している可能性があります。
契約別の割合ではMNPが33.6%、新規契約は13.9%で、端末単体販売は7%に。端末単体販売の割合が極端に低い理由としては消費者に周知されていないことのほかに、端末のみ販売を希望するユーザーへの販売を拒否する代理店が存在することも影響しているのかもしれません。
極端な廉価販売は携帯料金の下げ止まり・引き上げにつながる
携帯4社が販売代理店にスマートフォンを販売する際の収支は赤字になる機種が約半数以上を占めており、4社中3社が通信料収入で赤字を補填していると回答しています。
なかには他の機種販売の収入や端末補償サービス等の付加価値サービスの収入、同機種のオンラインまたは直営店での販売における収入で補填されており、1社は通信事業においても赤字になっていることから端末販売の赤字を補填できていないと回答しています。
こういった通信料収入で赤字を補填するような販売方法は、通信料金の下げ止まりや引き上げにつながることが懸念されるだけでなく、頻繁に買い替えるユーザーとそうでないユーザーで不公平感が生まれ、端末のみ販売している中古端末取扱事業者や家電量販店等に影響を及ぼす可能性があります。
1円スマホは規制される流れに
総務省も1円スマホ問題に関して各事業者から聞き取りを行なっています。
その中で携帯3社は1社が安値販売を始めると競争上対抗せざるを得ない状況にあることから業界一律でのルール化が必要対策とし、中古価格を下回らない価格設定になるようなルール作りが必要と述べています。
なお、携帯電話事業者が規制の穴を突いて過度な割引が発生するたびに「携帯電話事業者は回線だけを売って端末の販売はやめればいい」という意見も耳にしますが、ドコモは現在も携帯ショップでサポートを望んでいる利用者が多く、端末単体の販売開始後も98%がセット販売を選択していると説明しています。
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