昨年のPixel 6シリーズを一言で表すなら「暴れ馬」でした。
初の独自チップと完全に刷新されたボディにディスプレイ指紋認証、数年ぶりのカメラセンサーの刷新、Pro限定のトリプルカメラを詰め込み、史上最大のデザイン変更になったAndroid 12を搭載したスマホは大きな注目を集めたモデルでした。
しかし発売後には圏外問題やWi-Fi途切れる問題、ディスプレイ指紋認証の精度が悪いなど、致命的な不具合が続発する事態に。
携帯総合研究所にも「もうPixelは買わない」と怒りのコメントが複数寄せられました。
今年、Pixel 7シリーズに多くの人が望んでいたのは大幅な進化ではなく高い安定性です。
この声に答えるべくGoogleはPixel 7シリーズに指紋認証の精度改善に加えて、顔認証を追加したデュアル認証に対応。古いモデムを最新化し、Android 13もマイナーアップデートに留めた結果、Pixel 7 Proは気性を改善した優秀な一台に仕上がっています。
顔と指紋のデュアル生体認証
Pixel 7シリーズには、3年前に発売されたPixel 4シリーズ以来となる顔認証が搭載されています。
Pixel 6シリーズに搭載されたディスプレイ指紋認証の精度が悪いとの不満の声を受けて顔認証を復活させたと思われます。
指の状態や保護シート、光など周囲の環境によってうまく動作しなくなるディスプレイ指紋認証を補助する役割として利用できる顔認証はやはり便利。
Pixel 7 Proを手に取ることなく、机やスタンドに置いたそのまま顔認証で画面ロックを解除してスマホを操作できます。
顔認証はフロントカメラとAIなどソフトウェア処理によるもので、Pixel 4シリーズやiPhoneのように専用のセンサーによる奥行きの検出が可能な3D顔認証ではありません。
目を開いているか検出できるため、寝ている間に画面ロックを解除される心配はないものの、双子などよく似た人でも画面ロックが解除されることから顔認証が利用できるのは画面ロックの解除に限定され、1Passwordなど生体認証に対応したアプリロックの解除や決済時に顔認証を利用することはできません。
また、完全に顔が露出している時はスムーズに動作しますが、マスクなどで顔が覆われている場合は顔認証は利用できません。
登録できる顔は1つのみ。化粧など顔の状態が大きく変化する場合は、顔が完全に露出しても本人と認識されないことがあります。
脱マスクが加速している海外ユーザーにとっては待望の機能ですが、マスク生活がまだまだ続きそうな日本では効果半減といったところです。
結局のところフルの在宅ワークでもない限り、ディスプレイ指紋認証を多用することになります。
GoogleによればPixel 6の指紋認証センサーに比べて遅延が30%も改善されているとのこと。
Pixel 6 Proと使い比べてみると確かにPixel 7 Proの方が高速に指紋を認識します。特にややズレた位置に指紋を乗せた時の成功率はPixel 7 Proの方が高いと感じます。
残念ながら保護シート使用時に精度が大幅に落ちる問題はPixel 7 Proでも変わっていません。
保護シートを貼った状態でも精度をキープしたい場合は、Googleがディスプレイ内生体認証指紋センサーに高い精度を提供すると説明する専用の保護シートを購入すると良いでしょう。
保護シートを貼った後に指紋認証を再登録することも重要です。
なお、Pixel 6シリーズの指紋認証の精度に対する不満を受けて、Googleは指紋認証の登録プロセスを変更しています。
屋外でも快適なディスプレイ
Pixel 7 Proのディスプレイは6.7インチの巨大な有機EL。片手操作で指が届くのは画面全体の半分以下で、片手操作がメインの場合はスマホリングと片手操作モードが欠かせません。
動画やゲームなどの映像、操作時のアニメーションがなめらかに表示されるリフレッシュレートは最大120Hz。
画面を操作していない時やスクロールの速度が低い時など、画面の書き換え回数を落としても良い場合は消費電力を小さくして電池持ちに大きな影響がないように最低10Hzまでリフレッシュレートを抑えます。
ディスプレイの進化は画面の明るさのみ。
屋外など眩しい場所において画面の明るさが25%向上したことで晴天時でも画面が見やすく改善されています。
発売前の噂どおり、カーブエッジのディスプレイがフラット化していて、Pixel 6 Proに比べるとエッジ部分が滲んで見えるなどの違和感が少なくなっています。
ただ、残念ながら端末を深く握ると画面のエッジ部分に手が触れて誤操作が起きる問題はこれまでと同じように発生しています。
メタルなカメラバー
Pixel 7 Proには、ポリッシュ仕上げの光沢のあるアルミニウム製のフレームとキズが付きにくいGorilla Glass Victusでサンドイッチしたボディが採用されています。
昨年リニューアルされたデザインから大きな変化はありませんが、ボディを大胆に横断する背面の配置されたカメラバーがフレームと一体化してメタル素材になったことで、レンズをより強調するデザインに変化しています。
見た目に拒否反応を示す人も多い垂直に立つカメラバーはホコリや細かなゴミを集めてしまう問題もありますが、机に置いたまま操作してもガタつかないメリットもあります。
カラーはSnow、Obsidian、Hazel/Lemongrassの3色をラインナップ。今回はHazelを選びました。Google Storeで見るよりも明るい色合いです。それ以外の感想は特になく、正直なところSnowを選べばよかったかな。
背面のガラスは、昨年と同様にかなりすべりやすいので、ケースを使用した方がよさそうです。残念ながら汚れたら洗って使えるファブリック素材の公式ケースが復活することはなく、今年もポリカーボネート素材の公式ケースが販売されています。
ボディはIP68等級の防水防じんに対応。残念ながら噂されたデュアルeSIMには対応していません。
1つのeSIMチップに複数のプロファイルを保存することでデュアルeSIMを実現するeSIM MEPは、Android 13でサポートされているため、今後のアップデートで追加される可能性はあります。
3ヶ月に一度の機能追加アップデートに期待しましょう。
素晴らしい電池持ち
Googleによれば、Pixel 7 Proの電池持ちは24時間以上、スーパーバッテリーセーバー使用時で72時間です。
GoogleはテレビCMでやたらと72時間以上の電池持ちをアピールしていますが、スーパーバッテリーセーバーで72時間も耐えられる人はこの世に存在するのでしょうか。
カメラテストも兼ねて朝9時ごろにほぼ100%の状態から使い始めて、630枚の写真と動画を撮影したところ16時30分ごろに0%になりました。
カメラの他には、マップによる乗り換え検索とルート案内、インスタグラムでのスポット検索など、旅行に近いかなりヘビーな使い方です。
屋外モードによって画面の輝度が上がりやすい屋外での利用がほとんど。これで7時間30分間の電池持ちはかなり優秀です。
画面の明るさは自動調整オンが基本。屋外で撮影する時に画面が見えづらい場合は明るさを最大に変更していました。
電池持ちに大きく関わる画面の解像度は「1440p qHD+」と、電池持ちを改善できる「1080p フルHD+」の2つから選ぶことができますが、購入直後から変更せず1080p フルHD+に設定した状態。
なお、解像度の変更機能は、発表イベントでアピールすることもなくひっそりとPixel 7 Proだけに追加されています。今後のアップデートで追加される可能性はあるものの、現時点でPixel 6 Proでは利用できません。
充電は最大23Wの有線充電と、同じ23W出力の急速ワイヤレス充電(Pixel Stand 第2世代が必要)をサポートしています。
Google 30W USB-C 充電器を使った有線充電では30分間で約50%に到達し、約1時間30分でフル充電に。第2世代のPixel Standを使用した急速ワイヤレス充電では30分で35%、2時間30分でフル充電になりました。
パッケージには充電アダプタが同梱されていません。もちろんワイヤレス充電器も含まれないため、別売りの充電器が必要。
Google 30W USB-C 充電器は2,970円、ケーブル付きは3,960円。第2世代のPixel Standは9,570円です。
充電時間 | 急速有線充電 | 急速ワイヤレス充電 |
---|---|---|
15分 | 0%→25% | 0%→15% |
30分 | 47% | 35% |
60分 | 76% | 52% |
90分 | 96% | 75% |
105分 | 100% | ー |
120分 | ー | 92% |
150分 | ー | 100% |
スマホレベルを超えるズームカメラ
カメラが大幅に進化した昨年に比べて今年は控えめなアップデートになりました。
広角レンズに大きな変化はないものの、超広角レンズはオートフォーカス機能が追加されて新たにマクロ撮影が可能に。
Googleが今年、特に力を入れたのがズームです。圧縮効果が生まれるズーム撮影は、ワンタップでスマホとは思わせない写真を撮影できるかなり手っ取り早い手法です。
Pixel 7の望遠レンズは前世代の光学4倍ズームから光学5倍ズームに向上。超解像ズームは20倍から30倍に進化しました。
遠くのものに近づけるようになっただけではなく、画質も大きく向上しています。
iPhone 14 Proと同じように高解像度センサーの中心部分を使用するフル解像度の2倍ズームに対応したことで、Pixel 6 Proの切り抜いて引き伸ばすデジタルズームとは画質に大きな違いがあります。
机に置かれた料理を撮影する時に椅子を引いたり、体を後ろに反る必要のないちょうど良い距離の高画質2倍ズームは、通常のカメラモードだけでなくポートレートでもワンタップで切り替え可能。
さらに、光学5倍ズーム相当の望遠レンズでも同じようにフル解像度の2倍ズームが可能なため、5×2=10倍ズームの画質も大きく向上しています。
遠くのものをより綺麗に撮影できるズーム撮影とは逆に、近くのものを撮影できる新機能として「マクロフォーカス」が追加されました。
オートフォーカスに対応したマクロレンズを使って被写体の3cmまで近づいて撮影できます。
近づける距離はiPhone 14 Proよりも1cmだけ遠くなりますが、マクロ撮影において1cmの違いは大きく、明らかな違いがあります。
最も不満なことはマクロ撮影時にピントが合っているのか、合っていないのかまったくわからないことです。ポートレートモードのように被写体から離れてください、近づいてくださいといった案内もないため、ほとんど勘で撮ることになります。
後から見返してみると見事にピンボケの写真がGoogleフォトにアップロードされていました。
こういう時はGoogle Tensor G2と機械学習によって手ブレ、被写体ブレ、ピンボケを補正できる「ボケ補正」が役立ちます。
劇的にボケを低減する機能ではないものの補正の前後で確かな変化は感じることができます。
なお、ボケ補正はPixel 7シリーズで撮影した写真だけでなく、過去に別のスマホで撮影した写真でも、よりシャープに仕上げてボケ感を軽減することが可能です。
ただし、ボケ補正が効果的に動作するか実際に適用してみるまでわかりません。ボケ補正をかけるつもりが、逆にボケが強くなってしまう現象も確認しています。
Googleフォトにアップロードした膨大な写真からボケ補正が効果的に動く写真を見つけるのは大変な作業なため、ピックアップしてくれる機能が必要です。
動画では背景をぼかせる新機能「シネマティックぼかし」に対応しています。
ただし、意図したものにフォーカスするのが難しく、フォーカスのスイッチも遅い。iPhoneのシネマティックモードと同様に明らかに発展途上の機能で、満足できるまでにはまだ数年かかりそうです。
Google Tensor G2
Googleによれば、5nmプロセス製造のGoogle Tensor G2は、機械学習モデルの実行速度が最大60%、効率性が最大20%向上したようです。
CPUやGPUの性能を数値化するベンチマークスコアを計測したところ、CPUのマルチコアは確かに進化が見られるものの、GPUに関してはトップパフォーマンスを抑えて、省エネ・対発熱・性能維持といった安定性重視のチューニングが施されているようです。
高負荷な処理を長時間にわたって行うゲームは、オリジナルのGoogle Tensorよりも快適にプレイできます。
実際にApexモバイルをプレイすると、発熱自体はあるもののパフォーマンスに大きな影響はなく長時間のプレイでも快適。7時間30分のカメラテストでも発熱による制限は皆無でした。
ベンチマークスコア (3回平均) | Tensor G2 | Tensor G1 |
---|---|---|
Geekbench 5 (CPU) |
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3D Mark Wild Life Extreme (GPU) |
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3D Mark Wild Life Extreme Stress Test (GPU) |
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Geekbench ML (機械学習) |
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圏外問題の改善
冒頭でも書いたようにPixel 6シリーズでは、圏外問題やWi-Fiが途切れる問題がありました。
特に厄介だった圏外問題の原因の1つは、Galaxy S11シリーズに搭載されていた旧型のモデム「Exynos 5123」でしたが、Google Tensor G2では今月発表されたばかりのExynos 5300に変更されています。
Pixel 7シリーズでも圏外問題が発生していて、数は多くないもののいくつか報告(1,2)があります。
完全な解決とはいってないようですが、Pixel 6シリーズからは明らかに改善されています。
まとめ:Pixel 5以前からの買い替えがオススメ
It's GOOOOD!!
- 1日使える超優秀な電池持ち
- 高速化した指紋認証
- 顔認証とのデュアル生体認証
- 光学相当の高品質な2倍および10倍ズーム
- 優れた価格設定
TOUGH...
- フォーカスに難がある「シネマティックぼかし」
- ピント合わせが難しい「マクロフォーカス」
Pixel 7 Proは、圏外問題を改善する最新モデムを搭載したTensor G2チップと、画面ロックをスムーズに解除できる顔認証、光学5倍ズームの望遠レンズ、光学相当の2倍および10倍ズームに対応したトリプルカメラを搭載した魅力的な1台です。
何が優れているのかーーTensro G2チップで実現した音声関連の機能は魅力的なものではなく、ボケ補正や、まだまだ改善が必要なシネマティックぼかしもマクロフォーカスも購入の決め手にはならない機能です。
- 音声入力時に絵文字の提案と絵文字の検索
- ボイスメッセージの書き起こし
- 話者を識別するためのラベル機能(年内提供)
- 音声ガイダンスをタップ操作で進められる「Direct My Call」(米国のみ)
最もインパクトがあるのは新機能ではなく、暴れ馬だったPixel 6シリーズの気性が改善されて、正常に動作するようになったことです。
難があった指紋認証は30%も高速化され、新しい顔認証とのデュアル生体認証によって画面ロックの解除がスムーズに。Tensor G2によって発熱と電池持ち、圏外問題が改善され、カメラはズームが大きく進化したことで、スマホ離れした写真を撮影できます。
さらに、日本語のリアルタイム書き起こしに対応したレコーダーアプリ、写真から不要なものを消せる消しゴムマジック、最低5年間のセキュリティアップデートといったPixel 6シリーズで追加された機能はPixel 7シリーズにも引き継がれ、年内には購入特典のGoogle One VPNの無料利用券も追加されます。
今年発売されたスマートフォンのトップ5にランクインするはず。
ランキングで順位を争うのは「Galaxy S22 Ultra」でしょう。
本物の光学10倍ズームが可能なカメラとペン操作、最大4世代のOSアップデートと5年間のセキュリティアップデートに対応する点では、Galaxy S22 Ultraが優れています。
一方、価格面では17〜18万円のGalaxy S22 Ultraに対して、Google Storeおよびキャリア版の販売価格はPixel 7 Proが12〜14万円と2,3段階安く設定されています。
光学10倍ズームやペン操作が自分にとって必要かどうかGalaxy S22 Ultraのレビューで確認して、必要でなければPixel 7 Proへの買い換えを検討してはどうでしょうか。
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