“海外に比べて日本の携帯料金が高すぎる”として携帯料金の値下げを求めていた総務省。KDDIとソフトバンクは来月から順次、サブブランドで新料金プランを提供し、実質的な料金値下げを行う。
サブブランドでの値下げについて武田総務大臣は「しっかり対応して頂いた」と満足していると思われたが、3週間経ってから「メインブランドについては新しいプランが発表されていない。これが問題だ」と態度を一転して強く批判した。
これを受けてKDDIの高橋社長はメインブランドの料金を値下げすれば顧客は動かなくなり、総務省が求めていた競争は起こらないと反論し、「国に携帯料金を決める権利はない」と発言。
武田総務大臣はきょう27日の記者会見で個別企業に関してコメントは差し控えたいとしながらも次第にヒートアップした様子で最終的には「国が国が料金を決める、決めれないとかいうレベルではなく公共性の高い事業として国民に対してどういうサービスを提供しなければいけないか常識で考えてわかると思う。自分の判断で正しい道を歩んでいただきたい」と猛反論した。
「消費者は料金値下げの動きに乗ってこない」
記者会見では幹事社からKDDIの高橋社長がメインブランドでの値下げについてすぐには応じられないという発言と携帯会社にどういったことを要望しているのか?と質問されると総務大臣は「非常にがっかりした。なぜメインブランドの料金値下げになぜ触れたのかもう少し理解していただきたいと思っている」と答えた。
続けてサブブランドで低料金プランが発表されて選択肢が広がったことで一定の評価はしたものの、なぜ消費者が移ろうとしないのか意見を聞いたり調べた結果、囲い込みや高いハードルが存在したと説明。
そのハードルとは、メインブランドとサブブランドは同じ事業者でありながらのりかえ(MNP)の際に、複雑で多くの手続きが必要で15,500円の手数料だと指摘。これらの手続きと手数料によって「消費者は料金値下げの動きに乗ってこない」とし、「消費者庁と連携して自由な選択を阻害する制度についてはしっかりと指導することを考えている」と話した。
なお、のりかえの際に必要な15,500円の手数料はMNP転出手数料(3,000円)と契約事務手数料(3,000円)、9,500円の違約金を合計したものだが、2019年にソフトバンクは違約金を廃止(契約時期によっては必要)し、ドコモとauは新料金プランで1,000円に値下げした。
MNP転出手数料は総務省のアクションプランによって来年4月からウェブで無料化され、店頭では上限1,000円に値下げされる。ソフトバンクは撤廃を発表済み。こういった動きは総務省が進めてきたものだが一切触れなかった。
総務大臣は続けてサブブランドからメインブランドに移るときは手数料が0円になる特典や合計35,000円の月額割引など明らかに低いブランドに移行する推進運動ではなく高いところから顧客が出ていかないように制度設計されていると指摘。
こういった制度ならばメインブランドの料金を下げてもらうことでしか国民に値下げの実感を持ってもらえないとし、さらに「公共性の高い事業が複雑なスキームを使って家計の負担に重くのしかって苦労しているときに新たにお金を取ろうとする制度をつくるのか。公共性を見つめて欲しい。」と発言した。
携帯電話会社の利益は各家庭の負担の積み重ね
続けて消費者が加入する料金プランと実際に使っているデータ通信量について乖離があると指摘。上限20GB以上のプランに加入している42.8%に対して20GB以上使っているユーザーはわずか11.3%だという。
総務大臣は改めて利用者に使い方を把握してニーズにあった選択肢を選ぶよう求めた上で、利用者が料金プランと実際の使い方の乖離について把握していないということは事業者がよく説明をしていない、わかりにくいシステムになっていると批判。
「公共の電波を使った事業ならこういった実態を自ら見つめ直して改める努力をすることが重要。それが国民に対する誠意。それがあるべき姿」と続けた。
また、NHKの記者からKDDIの高橋社長が「国に携帯料金を決める権利はない」とコメントしたことについて聞かれると「非常にがっかり残念な思いをした」と返答し、ここからヒートアップして以下の発言を行った。
- 「何度も繰り返すように公共の電波を使った事業者がコロナ禍、国民生活が非常に窮していてその負担が重くのしかかっている現状のなかで相当な利益を挙げている。その利益は各家庭の固定費、つまりのしかかる負担の積み重ね」
- 「コロナ禍においてすべての方が協力してともすれば自分のできる限りの犠牲を人に振る舞う気持ちでコロナに打ち勝っていって力を合わせようとしているのにまったく国民生活に関連しようとしない」
- 「まだ複雑なプランを使ってさらに国民から別に料金を取ろうとするの?こうした姿勢が国民から納得が得られるのかっていう問題に対して指摘をしていたい」
- 「乗り換えの自由選択のハードルを徹底的に除去してもらわないといけない」
- 「国が料金を決める、決めれないとかいうレベルではなく公共性の高い事業として国民に対してどういうサービスを提供しなければいけないか常識で考えてわかると思う。自分の判断で正しい道を歩んでいただきたい」
- 「自分の会社のなかでのりかえにもかかわらず手数料と多くの手続きを取らなかければ低廉なプランに変えられない。国民に知っていただく努力もやってもらいたい」
当初は“海外に比べて日本の携帯料金は高すぎるから値下げせよ”だったが、今では“コロナ禍で国民の生活が困窮しているから携帯料金を値下げせよ”に変わってしまった。
また、メインブランドからサブブランドに乗り換えるハードルが高いと指摘しているが、これはサブブランドに限定されないことでメインブランドからMVNOも含めた他社へののりかえも同様に簡略化されるべきものだ。
総務大臣自ら低料金プランの選択肢があっても意味がないと言ったが、“低料金プランの選択肢”は格安SIM/格安スマホを提供するMVNOに置き換えられることもできる。当初から指摘されていたとおり、のりかえを簡略化すればキャリアからMVNOの流れができ、キャリアがサブブランドで対抗するといった競争も起きたではないだろうか。
キャリアからMVNOへの流れができないままサブブランドが大容量プランを用意したことで苦しむのはMVNOだ。総務大臣とキャリアは裏で話し合ってプロレスを繰り広げているようにも見えてくる。