2021年最も話題になったスマートフォンと言えば、iPhoneでもGalaxyでもXperiaでもなく、人気家電ブランドのバルミューダが発売した「BALMUDA Phone」でしょう。
トースターやオーブンレンジ、ケトルを愛用しているバルミューダーユーザーなので「次どんな家電を作るのかな」と毎回期待していますが、まさかスマートフォンとは予想外でした。
正式発表前に公開されたデザインを見て期待と不安を感じていましたが発表直後は酷評の嵐。それでも実際に触ってみないことには、、、ということで30日間返金サービスを利用できるバルミューダ公式サイトから購入することにしました。
販売価格はバルミューダ公式サイトで104,800円。ソフトバンクオンラインショップで143,280円、端末の返却等を条件に半額分の支払いが不要になる「新トクするサポート」によって71,640円で購入できます。
これがBALMUDA Phoneのパッケージ。アクセサリのような大きさとデザインでスマートフォンのパッケージとしてはかなりシンプル。本体のほかにSIMカードを取り出すためのピンとクイックガイドが入ってるだけで充電器やケーブルは同梱されていません。充電器(20W USB-C)とケーブル(60W USB PD)はBALMUDA Phoneの純正アクセサリとして販売されています。価格はどちらも2,970円。本体以外も高額です。
フラットパネルやフラットエッジなど、スマートフォンのデザインは直線的なデザインがトレンドですが、BALMUDA Phoneは流れに逆らうように丸みのあるラウンドフォルムを採用しています。その理由は「1日100回触るスマホの背面は持ちやすくあるべき」と発表会で明かされていました。確かに手取るとフィット感が高く、少ない力でもしっかりと握れるため、長時間の使用でも手が疲れにくい。
Balmuda technologiesのロゴを刻印した背面は質感にもこだわっていて、最近のスマートフォンは“ピカピカ”で劣化しやすいことからBALMUDA Phoneは河原に落ちているようなザラつきのある石を目指したとのこと。
ザラつきはあるものの素材は柔らかい樹脂を使用しているためソフトな質感です。特許出願中の特殊な仕上げによって革・木材・デニムのように使えば使うほど味わい深くなるそうです。
背面には、端末を伏せた状態でも通知を確認できるLED、カメラ、LEDフラッシュ、スピーカー、指紋認証センサー/電源ボタンが並びます。レイアウトがごちゃごちゃしていてバルミューダらしくないデザイン・・・。同じ大きさのカメラと指紋認証センサーが横に並んでいるため、画面ロックを解除しようとして誤ってカメラを触ってしまうことも多々あり、くぼんだカメラにホコリが溜まりやすいなど、使い勝手としてのデザインもはっきり言ってイマイチです。
フェイクレザーのような質感の背面に対して、ピカピカな側面のフレームはまさに「ザ・プラスチック」。キズが目立ちやすく質感も安っぽいなど、10万円のスマートフォンに使用して良い素材でしょうか?丸みのあるツルツルな素材の側面に配置された音量ボタンも指が滑りやすく、かなり押しづらいです。
BALMUDA Phoneの画面サイズは4.9インチで、画面に穴の空いたようなパンチホールを採用。動画やゲームを快適に楽しめるように6インチ前後のスマートフォンが多いなかで4インチ台は思い切った選択です。
バルミューダはまず初めに最適な画面サイズを探すために4.5インチから5.5インチまで0.1インチ刻みで模型を作ったそうです。一度は4.8インチで決定したもののソフトバンクのアドバイスもあって5G対応が決まり、4.8インチではどうしても部品が入らないことから4.9インチに変更されました。
握りやすいラウンドフォルムのボディに小さなディスプレイによって、持ち手と反対側に表示されたボタンやアイコンを簡単に押せます。一画面に表示される情報量は多くないため、TwitterのタイムラインやInstagramのフィードなど縦長の画面を見る時のスクロール量が多くなりますがそれほどストレスは感じません。
画面周りのフチ(ベゼル)はしっかりと厚みがあります。ベゼルの色と本体カラーは統一されていて、画面オフの状態ではホワイトよりもブラックの方がスッキリ見えると思います。
ベゼルにはスピーカーが搭載されていますが、音声通話用のため動画や音楽再生時に音は鳴りません。音は背面のモノラルスピーカーから出力されるため、音に違和感があって動画や音楽に集中できない。
発表直後に「これだけベゼルに厚みを持たせたのであれば、フロントステレオスピーカーで非パンチホールにできなかったのか」という声も多く聞かれましたが、ラウンドフォルムによってエッジに厚みを確保できず、部品を搭載するスペースが確保できなかったのでしょう。指紋認証がヘンテコな位置にあるのもその影響だと思います。
手とスマホのフィット感はケースで改善できることを考えれば、本体はフラットでバルミューダ純正のスマホケースでフィット感を高めるという選択肢もあったのではないでしょうか。
Snapdragon 765、6GBのメモリ、128GBのストレージ、2,500mAhのバッテリー、シングルレンズのカメラ・・・いずれも10万円のスマートフォンとしてかなり物足りません。正直なところハードウェアで評価できるのは「片手で使いやすい」その1点だけです。
では、バルミューダの寺尾社長が「アプリケーションの可能性の深さ・大きさを強く感じた」「まったく違う使い心地はアプリケーションの革新によって起こる」と語ったソフトウェアーーBALMUDA Phoneの中身はどうでしょうか。
OSはAndroid 11がベース。スワイプ操作で1つ前の画面やホームに戻れるジェスチャー操作を採用(3ボタンに変更も可能)し、バルミューダ独自のカスタマイズが施されています。
ホーム画面はバルミューダオリジナルの「BALMUDA Home」を搭載。全12色の背景から好みのものを選んだり、ストライプのカラーを変更したり、オーナー名、誕生日、電話番号を表示して文字色やフォントを変更できるアレンジ機能を搭載しています。
ホーム画面のアレンジ機能についてバルミューダは「デザインを変えられるだけではないパーソナライズ機能」と発表会で説明していましたが、自分の好みで設定した壁紙から色を抽出して、ロック画面や通知、設定画面など、OS全体に適用して統一感を持たせるAndroid 12のパーソナライズに比べると、アレンジの域を出ていないというのが正直な感想です。
BALMUDA Homeのメインページには、ストライプを上下にスワイプすることでお気に入りのアプリや現在地から事前に設定した場所への経路検索、スケジュールの新規登録などをショートカット起動できるランチャー機能や日付と天気、Googleの検索バー、最大10のアプリを配置可能。
2ページ目以降には、BALMUDA標準アプリに素早くアクセスできる「Tools」が表示されます。アプリのアイコンを探さなくてもホーム画面からアラームを設定したり、メモを取ったり、計算機を使用したり、その日のスケジュールを確認できる使い勝手の良いフルサイズのウィジェットです。普段使うものだけを表示したり、表示順を入れ替えることもできます。
標準アプリは「スケジューラ」「メモ」「ウォッチ」「計算機」「カメラ」の5つを収録しています。
特に便利なのは予定を管理できるカレンダーアプリの「スケジューラ」でした。普段使っているGoogleカレンダーは、イベントを詰め込んで表示するため、タップをするまでイベントの時間や内容などの詳細を確認できず、表示形式を切り替えるのもいくつかの手順が必要など使い勝手は良くありません。
その点、BALMUDA Phoneのスケジューラは、上下で日付の流れ、左右で時間の流れを表現する表示形式を採用したことで、4.9インチの小さな画面でもイベントの内容を一目で確認しやすく、さらに2回タップ→上下ドラッグによるスケールの拡大・縮小によって予定をシームレスに確認できます。
発表会では表示形式の変更は便利なピンチ操作で行うと説明されていたので「せっかく片手で操作できるサイズなのに、両手操作が必要なのはもったいないな」と思っていましたが、ジェスチャーによる拡大縮小をサポートしていて安心しました。
なお、カレンダーの中身はGoogleカレンダーと同期されるため、イベントなど入力し直す必要はありません。
「メモ」アプリは、無限に広がるスペースビューに付箋を貼り付けるインターフェースを採用しています。
付箋の色分け、細切れのメモの時系列・優先順に並べ替え、サムネイルにメモのタイトルや本文、添付した写真や動画を表示するなど、古いメモが下に溜まっていくリスト形式の一般的メモアプリよりも使い勝手は良いです。
残念なのはスケジュールのような拡大・縮小操作ができないこと。ピンチ操作や2回タップ→上下ドラッグによるスケールの拡大・縮小はできるものの、連続的なスケール変更ができないため、2回以上の拡大・縮小するにはその都度ジェスチャー操作が必要になります。また手書きメモや表を使うことはできません。
時計アプリは時計・ストップウォッチ・目覚まし・カウントダウンを利用できます。最も利用する目覚ましでは、テンキーを使って起床時の天気や気温を確認しながら最大3つまでアラームをセットできます。音にもこだわっていて元ミュージシャンの寺尾社長が作曲した目覚まし音を収録。料理時に使用することが多いカウントダウン(タイマー)では、バルミューダの人気商品「BALMUDA The Toaster」でパンが焼きあがった時の音も選べます。
「大人による大人のための」計算機アプリでは、3桁ごとのカンマ表示を4桁ごとに単位を表示する「億万ボタン」や為替計算機能を搭載。個人的にカンマ表示の数字を読むのが苦手で一、十、百、千、万…と数えているので億万ボタンは嬉しい機能です。AppleやGoogleなど海外企業の決算やスマートフォンの海外での販売価格などを確認することも多いので為替計算も嬉しい機能です。
カメラアプリはシャッターボタンが大きく表示されるシンプルなレイアウト。画面を左右にスワイプすると、撮影モードをムービー・フォト・料理・人物・夜景の4種類にスイッチできます。
ただ、撮影シーンや被写体を自動検知して撮影設定を最適化する機能がないため、ついついノーマルモードで撮影しがち。ミドルレンジ向けのチップセット「Snapdragon 765」を搭載していることもあって撮影モードの切り替えはかなりもっさり。撮りたい瞬間を逃してしまうカメラです。
料理モードはバルミューダいわく「何をどういじれば、どういうパラメータを変化させれば美味しそうになるかを熟知している」キッチンチームが持つノウハウをフル投入した期待感の高い機能です。どれほど美味しく撮れるのかメーカー直販価格が同じ10万円のiPhone 13と撮り比べてみました。オーバー気味な加工がかかることもありますが、概ね暖色が持ち上がって美味しそうに撮れます。
先に書いたとおり撮影モードをノーマルで撮影しがちなカメラアプリに仕上がっています。ノーマルモードで料理を撮影したところ暖色照明の店内にて異常に赤みがかる不具合も確認できました。フレームに収まる被写体の色によって青みがかってマズそうに映るなど、色合いの調整がかなり不安定です。
バルミューダによれば、発売に合わせて提供されたアップデートにて特定の条件が揃うと(料理モードで白い被写体と暖色が混じなど)青みがかってマズそうに見える不具合が発生していましたが、12月14日配信のアップデートで修正案内が出ています。
風景も撮影してみました。空の青が薄く全体的に淡いボヤっとした仕上がりになります。ダイナミックレンジが狭いため、数年前のスマートフォンで撮影したようなレトロな雰囲気の映えない写真になりがち。シャープネスももの足りません。
48MPのシングルレンズで撮影した写真は4つのピクセルを1つの大きなピクセルとして扱い12MPで出力されるため、暗所でも明るく撮影できるピクセルビニングをサポートしていると思いますが、イルミネーションを夜景モードで撮影したところiPhoneに比べると暗い仕上がりになりました。
夜景でも再び色合い問題に遭遇。東京タワーを撮影するだけでこんなにも色合いの違う写真が撮れます。とにかく色味が安定しないので撮影に時間がかかります。
独自のアプリで目指すところの1つにスマホの利用時間を減らすことを掲げていますが、少なくともカメラアプリに関して動作がもっさりで、色味が不安定でまともに撮影できないのでかなり時間がかかります。
電池持ちもレビューしておきましょう。
バッテリー容量は最近のスマートフォンとしては少ない2,500mAhですが、画面サイズが4.9インチなので消費電力は低いはず。電池持ちを検証するために、午前10時に利用を開始して1日で230枚以上の写真を撮影。場所の移動中にGoogleマップやChrome、Twitter、Instagramなどをチェックして19時すぎにバッテリーが0%になりました。
朝会社や学校に行って夕方〜夜に帰宅するようなライトな使い方でも1日1回は充電が必須。旅行などで写真や動画をたくさん撮るような使い方であれば、どこかのタイミングで充電しないと夜まで持ちません。長い電池持ちを優先する人はターゲットではないと思いますが、モバイルバッテリーも常に携帯が必要かもしれません。
最後は発熱。ミドルレンジのチップセットということもあって瞬間的に手で持てないような熱を発することはないものの、コンパクトボディで排熱性が悪いのかカメラやゲームなど負荷の高いアプリを使っていると、徐々に熱が蓄積されて発熱した状態が長時間続きます。
まとめ:バルミューダらしくない製品
It's GOOOOD!!
- 片手で快適に操作できるコンパクトボディ
- スケジューラーなど使いやすい独自アプリ
TOUGH...
- 見合わない高額な価格設定
- 劣等なカメラのソフトウェア処理
- バルミューダらしくないデザイン性
- デカすぎるパンチホールと表示エリアを狭める通知バー
ということでバルミューダファンによるバルミューダスマホ「BALMUDA Phone」のレビューでした。個人的にバルミューダで統一して並べたくなるようなシンプルなデザインが好きで、バルミューダの家電をキッチンに並べて毎日使用しています。
10月発売のコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」もデザイン性に惹かれて購入を検討しましたが、一番面倒な豆を挽くミル機能がなかったから購入を断念。でもこれぞバルミューダな製品だと思います。実際に売れ行きは好調なようです。
コーヒーメーカーと同じようにBALMUDA Phoneにも機能の豊富さは二の次、高いデザイン性を期待していた人は多いはずです。ただ、9月に公開された背面のデザインを見て「ああ、こうなるのか…」と感じ、正式発表でも実際に利用しても印象は一切覆らず残念な結果になりました。
製造は京セラが担当していますが、発表会で明かされたデザインの原案を見たところ製品版と大きく離れているわけではなく、むしろ忠実に再現されていました。製造上の理由でデザインが悪化したということはないようです。
バルミューダは高いデザイン性が評価されていますが、すべての製品のデザインが優れているわけではありません。掃除機・デスクライト・炊飯器など「あれ?」と思うような製品も正直あります。
コーヒーメーカーのようにデザイン性が優れていれば「機能や性能はそれほどだけど、デザインが決め手だよ」と購入動機ができますが、デザイン性も機能性も高く評価できないのがBALMUDA Phoneでした。
高価な家電と認知されているバルミューダでも10万円の価格設定は高すぎる、それに尽きます。5.9万円のコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」、1.2万円の電気ケトル「BALMUDA The Pot」、2.5万円のスチームトースター「BALMUDA The Toaster」をすべて購入してもお釣りが来ますから。ここ数年レビューした製品のなかでかなりコスパの低いスマホだと思います。
すべてが悪いわけではなくスケジューラや計算機など使い勝手の良い専用のアプリケーションも搭載されています。すべてができたてなのでカメラアプリも含めてこれからアップデートを重ねて改善されるはず。第1弾ながらPixel 6|6 Proのような致命的な不具合を連発していないところは評価できます。
すでに第2弾の開発も始まっていて「スマホと呼ばれないデザインも始まっている」と明かされています。タブレットではないかと噂されている次期デバイスには期待していますが、今回のBALMUDA Phoneをじっくり約3週間使用した結果さすがに高すぎると感じたので、今回は30日間返金サービスを利用することにしました。