“iPhone SE2”として噂されていた待望のコンパクトモデルがついに4年ぶり、2020年にアップデートされた。
デザインを旧モデルから引き継ぎ、各部品を流用。チップセットを最新化することで低価格と優れたパフォーマンスを両立させ、長期間のOSアップデートが期待できるなど、“S”pecial “E”ditonのコンセプトや特徴は4年前と変わらない新しい「iPhone SE」(第2世代)をレビューする。
親しみのあるデザイン
新しいiPhone SEは上下に分厚いベゼルとクリック一発でダウンロードしたすべてのアプリにアクセスできるホームボタンを搭載するなど、おなじみのデザインが採用されている。
ホームボタンは厳密に言えばボタンではなくただボディが凹んでいるだけ。凹みを指で押し込むと、内蔵されたTAPTIC ENGINEが振動することで人間の指と脳にボタンと錯覚させている。
ホームボタンには指紋認証センサーを内蔵。タッチするだけで画面ロックやアプリのロックが解除され、Apple Payもオンにできる。Felicaにも対応しているため、改札やレジにタッチするだけで支払い可能だ。
上位モデルが採用している顔認証「Face ID」はマスクを外したり、ずらして認証する必要があるが、指紋認証「Touch ID」はその必要がない。顔認証も便利ではあるものの新型コロナウイルスや花粉症でマスクがかかせない今は指紋認証の方が不便さを感じることが圧倒的に少ない。
4.7インチのディスプレイは液晶で有機ELと見比べるとやはり画質は1〜2段劣る。明暗の差を示すコントラスト比の違いが画質に大きな影響を与えていてiPhone 11 Proと見比べると、濃淡の差が小さいため、のっぺりした印象だ。また、画面が暗いため日差しのある屋外では見にくいと感じることもある。
機能面ではロック画面で通知を長押ししてLINEやメールの返信、メッセージの詳細を確認できない仕様になっている。通知画面からクイックに返信できる機能は非常に便利なので残念だ。
残念ながらイヤホン端子はなくなった。パッケージにはLightningに接続できる有線イヤホンが同梱されているが、お気に入りの有線イヤホンを使い続けるには変換アダプタを別途購入する必要がある。Appleのメッセージは「AirPodsを買え」。少しの音遅延も許容できない人でなければその言葉に従って「AirPods Pro」(レビュー記事)を買っても損はしないと思う。
スピーカーはただのステレオ再生。iPhone 11シリーズが対応するDolby Atmosや空間オーディオ再生には対応していない。iPhoneのスピーカーは“XS”シリーズ→11シリーズと進化するにつれて劇的に良くなったが、新しいiPhone SEのスピーカーはシャカシャカ鳴っている。
ガラスパネルの背面にはシングルレンズのカメラシステムが搭載されている。iPhone 11シリーズと同じようにAppleのロゴが中央に移動した。購入したのは深みがある赤のPRODUCT (RED)。
PRODUCT (RED)を選んだ理由は2つ。1つは収益の一部が新型コロナウイルス対策のために寄付されること、もう1つは初代iPhone SEと違ってすべてのカラーにおいてベゼルの色が黒で統一されていること。ベゼルが白だったら赤を選ばず、ホワイトを選択してたかもしれない。
4年が経過して新たにワイヤレス充電にも対応。別売りの充電パッドに置くだけで充電がスタートする。7.5W出力のため充電スピードは決して速くない。スピードを優先するならLightningによる高速充電によって2時間足らずでフル充電にできる。いずれもパッケージ同梱の充電器では高速充電されず、別売りの専用ケーブルと対応充電器を購入する必要があるため注意が必要だ。
防水・防じんにも対応した。性能はIP67等級のため、iPhone 11シリーズよりは劣るが長い時間、深い深水で浸さなければ問題なし。水やコーヒー、オレンジジュース、ビールなどがかかったぐらいで水没することはない。
Androidと比較するとiPhoneのデザインは古いと言わざるを得ない。数ヶ月前に発売されたばかりのiPhone 11シリーズでさえいまだにノッチが付いていて厚めのベゼルで画面を囲っている。Androidは低価格モデルでさえ、トレンドのパンチホールデザインを採用したものが多い。
iPhone SEのデザインはそこからさらに数年遅れている。でも使いやすいし、旧デザインを採用しなければ、最新のチップセットを搭載しながら49,280円という驚きの低価格は実現できなかった。
スマートフォン史上最速のプロセッサ
新しいiPhone SEには上位モデルのiPhone 11シリーズと同じ“スマートフォン史上最速”のチップセット「A13 Bionic」が搭載されている。
性能を数値化するベンチマークスコアを計測したところ、A9チップを搭載した第1世代のiPhone SEやiPhone 6sと比較して約240〜270%も高速化されていることがわかった。GPUは約210%高速化されている。
技術サイトAnandTechの厳しい検証において、A13 Bionicはほかのプロセッサと比較して2倍以上の性能を実現しており、モバイル分野ではライバル不在でデスクトップPCクラスのチップセットと高く評価している。実際、昨年9月に購入してからiPhone 11 Proを使い続けているがパワー不足を感じたことはない。
新しいiPhone SEはPhone 11シリーズよりもメモリ(RAM)が1GB少ないが、ゲームアプリやカメラなどメモリを多く必要とするアプリを複数立ち上げてアプリ間を移動しても音楽が止まったり、目に見ないところでアプリが落ちることはない。ディスプレイの解像度やカメラの機能・レンズ数、価格などを考えて最適な容量をAppleが選択したようだ。
スマートフォンにそれだけパワフルなチップセットが必要なのか?とよく聞かれるが、スマートフォンだからこそ必要になることも多い。複数枚の写真を撮影した瞬時に合成したり、画像の色合いを、被写体や背景との距離をAIで導きだす処理はPCに存在しない。
もう1つはiPhoneの特徴でもある長期的なアップデートの提供だ。
ソフトウェアやOSは毎年、毎月進化するがハードウェアは進化できない。アップデートを重ねて多機能化されたソフトウェアの要求にハードウェアが答えられなくなるとアップデートが打ち切られる。初代iPhone SEは4年間もアップデートが提供されているが、おそらく新しいiPhone SEも長期間提供されるはずだ。
1日使える十分なバッテリー
同じA13 Bionicチップを搭載するiPhone 11シリーズの電池持ちが高く評価されている。新しいiPhone SEにも期待したが、ここ数日使った感想はまあまあだ。
バッテリーレポートを確認したところ、使用時間が約10時間のうち画面オンの時間が約4時間〜5時間で100%から0%になっていた。使用時間の内訳は以下のとおりライトな使い方。カメラを多用する旅行ではやや心配だ。
- Safari: 45分
- 音楽: 20分
- SNS: 30分
- ゲーム: 30分
- ニュース: 80分
昨年秋、AppleはA13 Bionicチップの効率さをアピールしていたが、結局のところバッテリー容量に勝るものはない。プロセッサが異なるにも関わらず、Appleは新しいiPhone SEの電池持ちについて“iPhone 8とほぼ同じ”と説明している。バッテリー容量はiPhone 11 Proの3,046mAhに対して、新しいiPhone SEとiPhone 8は約60%ほどの1,821mAhだ。
今は1日使うには十分の電池持ちだが、バッテリーの劣化とソフトウェアのアップデートによる消費電力増によって数年後も安心できるほどではない。なお、Appleでのバッテリー交換費用は製品保証およびApple Care+の期間内で0円、保証対象外で5,400円となっている。
“iPhone史上最高”のシングルカメラ
4万円でも“Pro”のような写真が撮影できるのはまさにパワフルなプロセッサのおかげ。
さまざまな明るさ(露出)で複数の写真を高速撮影して瞬時に合成する「スマートHDR」と、写真に何が写っているかを認識して光を当て直す機械学習によって逆光でも白飛びせず影でも黒つぶれしない自然な写真を作り出している。
もちろんすべてが“Pro”と変わらないわけではない。特に物足りないと感じたのはポートレートやナイトモードといったカメラ機能だ。
一眼レフカメラのように背景をぼかせるポートレートはiPhone 11シリーズが人・ペット・物などの被写体を認識するのに対して新しいiPhone SEが認識できるのは人だけ。2年以上前に発売されたiPhone XRと同じように愛犬・愛猫・料理などにはポートレートモードは使えない。
夜景や暗闇でも明るく撮影できるナイトモードには対応すらしていない。1年前にGoogleが発売した同じ価格帯のPixel 3aシリーズはポートレートもナイトモードも使えるのにiPhoneが対応できないのは不思議だ。
ビデオ撮影はiPhone 11とほとんど変わらない。4K動画も撮影可能、120fpsのスローモーションも撮れる。
フロントカメラはポートレートに対応するものの、スマートHDRや4K動画撮影、スローモーションビデオ、アニ文字/ミー文字(顔の動きと連動する3D顔文字)など非対応の機能が多い。
新しいiPhone SEのカメラも悪くないが、やはりカメラにこだわるのであれば3万円高いiPhone 11を購入した方が良い。
まとめ:“4インチ愛好者”こそ買うべき
It's GOOOOD!!
- 手ごろな価格
- 十分な電池持ち
- スマホ史上最速のプロセッサ
- 長期間のOSアップデート
- 明るい場所で“Pro”レベルのカメラ
TOUGH...
- 新鮮さのないデザイン
- 暗い場所に弱いカメラ
- 人専用のポートレートモード
現在、Appleは5つのiPhoneを販売しているが、新しいiPhone SEと購入を迷うのは「iPhone 11」だろう。両機種の違いについては別の記事で詳しく解説しているが、カメラを妥協したくないのであれば「iPhone 11」をオススメする。
一方で超広角カメラやナイトモード、顔認証、有機ELディスプレイなどが自分に必要ない、または30,000円の価値がないと判断したのであれば、49,280円の新しいiPhone SEを選択した方が良い。差額の30,000円でApple Watch Series 3やAirPods Proを購入できる。
新しいiPhone SEが発表された時やそれよりも前の噂の段階で「こんなのはiPhone SEじゃない」「サイズはそのままで良かった」「4.7インチなら買わない」といった声が多く聞かれたが、そういった人こそ新しいiPhone SEを購入するべきだ。
最大の理由は新しいiPhone SEが4.7インチのディスプレイを採用したこと。AppleがiPhoneを4インチでリメイクすることは二度とないだろう。
4インチ愛好者に残されている選択肢はおそらく今年秋にサポートが終了する初代iPhone SEをセキュリティ面で不安を抱えながら使い続けるか、安全でサクサクの新しいiPhone SEに買い換えるか、安いAndroidに乗り換えるかだ。
ただ、新しいiPhone SEほど優れた低価格のAndroidスマートフォンを見つけるのはなかなか難しい。
OSが異なるため使用感を含めた比較はできないが、スマートフォン史上最速のA13 Bionicチップの性能はAndroidのハイエンドモデルが搭載するSnapdragon 865をも上回っている。
来月発売が噂されるGoogleの「Pixel 4a」に期待がかかるが、チップセットはミドルレンジを採用するようで性能は遠く及ばない。画面サイズも5.8インチで本体サイズも1〜2まわり大きいため、4インチ愛好者には合わないだろう。
Androidを検討する上で懸念すべき点はアップデート保証期間がiPhoneに比べて短いこと。ほとんどが2年間でGoogleのPixelスマートフォンでさえ発売から3年間となっている。Appleはアップデートの提供期間を保証してないが、初代iPhone SEには4年もの間、アップデートが提供され続けている。
Appleは機種ごとでなくチップセットごとにOSのアップデートを打ち切るが、新しいiPhone SEにはハイエンドのiPhone 11シリーズと同じA13 Bionicチップが搭載されているため、長期的なアップデートの提供が期待できる。
いま新しいiPhone SEを購入しておけば、これまでの4年間と同じ時間を過ごせるはずだ。
新しいiPhone SEはApple公式サイトではすでに販売されており、ドコモ・au・ソフトバンクは予約受付中で5月11日(月)に発売される。販売価格はこちらの記事で詳しく解説しており、3社の料金を比較できる自作の料金シミュレーターも公開している。